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アルパインクライマー・長門敬明×マウンテンハードウェア(前編)

2018/04/19

「僕はアスリートではなく、 クライミングが楽しいからやっているんです」

日本のアルパインクライミングを牽引するひとり、長門敬明さん。 マウンテンハードウェアのMD(商品企画)を担当し、長門さんにクライミングを教えてもらっているという伊藤大悟さん。ふたりの対談を通じ、クライミングの魅力を語っていただきました。

長門敬明さん(右)と、マウンテンハードウェアMDを担当する伊藤大悟さん(左)。

ーー2017年8月5~10日の6日間をかけて、長門敬明さんはパートナーの横山勝丘さんとともにパキスタンのカラコルム山脈のK7West(6615ⅿ)山頂から延びる南西稜を初登攀され、新ルートを開拓されましたが、これはどんなルートなんですか? 写真を見るだけでも凄まじさが伝わってきますが……。

写真左上に見えるのが、K7West。世界で2番目に高い山、K2が知られているが、これは、カラコルム山脈測量番号2号を意味する“Karakorum No.2”の頭文字をとったもの。つまり、K7は、Karakorum No.7ということ。今回登頂したK7Westは、K7の西側のピークで標高6615ⅿ。(撮影=長門敬明)


K7Westへ向かう南西稜に6日かけて新ルート開拓。そのルートには「Sun Patch Spur」と名付けた。理由は、かんかん照りの灼熱のような暑さと、長門さん、横山さんともに38歳だからというシャレ! bivyとはビヴァーグのこと。(撮影=長門敬明)


長門   K7Westは、ヒマラヤの中央部に位置します。南西稜はとても長く、標高差は2300ⅿを越えるんですね。ここで、標高差1500ⅿ以上におよぶ岩壁の新ルート開拓と、長大で複雑な氷雪壁やリッジの登攀、さらには未知の壁の下降も含まれます。

ーー誰も行ったことがない複雑なルートを開いていくわけですから、想像を絶するものがありますね。しかも、2014年にも長門さんと横山さん、増本亮さんの3人でまた違うコースを挑戦しましたが、悪天候やケガで撤退されてらっしゃる。リベンジともいえる今回の遠征。ベースキャンプ設営から、アタックするまでの約2週間をどう過ごされたのか、パートナーの横山さんがまとめていた登頂までの記録を、表にまとめました。振り返っていかがですか?

遠征を振り返る長門さん。K7は、2014年にも挑戦したが、残念ながら悪天候やケガで撤収。2度目となる2017年の遠征で登攀に成功。


7月19日
ビッグウォールフリークライミングを目的とした増本と佐藤裕介を合わせた4人で、チャラクサ氷河標高4200ⅿにベースキャンプを設営

7月20日〜8月1日
高所順応と準備に費やす。天候は不安定。高所順応も標高5800ⅿで一泊することしかできなかった

8月2日
下部岩壁に食い込むガリー~チムニーを主体とした9ピッチを登攀(5.11cまで)。ロープをフィックスして、その日のうちに下降。

8月3,4日
レスト

8月5日
夜明け前にゴーアップ。以降3日間かけてバダルピークまでの複雑な岩稜を、人工登攀や同時登攀も交えて登り切る(新ルート、35ピッチ 5.11c R/ A2)。
バダルピークから先は一転、雪と氷に覆われたリッジ登攀となる。ルートファインディングが複雑で、技術的難易度は決して高くはなかったが、山を的確に見て正確な判断のもとに素早く行動することが求められた。
5日目の午前中に登頂し、その日のうちに北西壁を下降。氷河上でビバークののち、翌10日に対岸の尾根を登り返し、傾斜の緩くなった裏側の斜面を駆け下り、ベースキャンプに戻る。


長門 ルート自体の難易度はそんなに高くなかったと思うのですが、想定外のことが続き、目に前のことを乗り越えるのに必死でしたね。遠征中は、生活の場となるベースキャンプをつくり、そこで寝起きしながら体を標高にならして準備するんですね。少しずつ高度をあげていき、天気がいい周期のときを狙って頂上へアタックする。
僕は高所順応をしているときに体調を崩してしまい、それが治らないままアタックすることになって。遠征期間が短かったという焦りもありました。しかも、シュラフを軽くしようとして薄めのものにしてしまったがために、寒くて5日間ほとんど眠れませんでした。

ーーただでさえ、険しい道を歩かねばならないのに、5日間ほとんど寝ていないとなると集中力や体力が途切れてしまいそうですが?

長門 あの環境に立たされると追いつめられる。これは、なんとしてでも行くか、逃げるかしかない。萎えてなんかいられません(笑)

3日目のロッククライミングセクション、後ろのギザギザした尾根が登ってきた新ルート。セカンドの横山が重荷を背負って登ってきているところ、ここまで1300mは登ってきている。(撮影=長門敬明)




ーー登頂されたときはいかがでしたか?


長門 頂上にたったというより、しゃがみ込んだ感じですね。達成感や感動というよりも、もう登らなくていいんだ、という開放感と、今から下りなければいけないとい緊張があって、10分もいなかった。今、写真を見てもここにいったのか、という信じられない気持ちのほうが強いですよね。

ーー過酷な場に挑むうえで、ウェアは大切ですね。遠征にあたって、ウェア、ギアのサポートをマウンテンハードウェアではされていますが、どういったものを準備されたんでしょうか?

伊藤  長門さんがK7へ遠征に行くために作ったモデルがあるんです。16年の秋冬モデルの「ナットクラッカープルオーバー」というストレッチ防水シェルとパンツのセットアップです。長門さんからこういう感じで作ってほしい、という要望をいただいて、それに答えるかたちで開発したものなんです。

長門 ウェアに望むことの基本は、テントと同じで悪天候から守ってくれるものですね。すべて荷物は背負って行くので、軽くないといけない。軽くするにはどこを省けばいいのか、生地は通常のものよりストレッチ性の高いものを、ヘルメットをかぶってからフードをかぶるので顔の露出を押さえた大型フードにしてもらったりね。

伊藤   ハーネスと干渉しないようにプルオーバーに、脱ぎ着と換気をラクにするために両サイドの裾はジッパーにしています。 ナットクラッカーパンツは、動きやすいストレッチ。岩場などすれる部分は強度のある生地を使っています。ハーネスとの干渉を避けるために股上は深めに、スタンスが見やすいように細身になっているんですよ。

2016年の秋冬、長門さんの遠征のために作ったジャケット、パンツを見ながら思い出すふたり。残念ながら去年のモデルなので、現在販売はなし。


ーーこのような偉業を達成されたにもかかわらず、長門さんはいろんな媒体のインタビューで「クライミングは遊び」と話してらっしゃいますが? もともとは学生時代のワンゲル部が、山のはじまりだったとか。武蔵野美術大学の学生だった青年が、どうしてこんなに山にはまったんでしょうか?

長門 僕もそれがわからないんです(笑)。自分でもこんなにやると思わなかった。たまたま山登りを始めたくてワンゲルに入って楽しさを追求したら今に至ったんでしょうね。クライミングは、人と競う訳ではないし、単純に楽しいんですよ。自分が想定していた以上のハードルがあって、それが大きければ大きいほど乗り来えられたらうれしい。海外の遠征も楽しいから行くんであって、遊びの延長なんですよ。周囲のクライマーとこんなところあるから行ってみようぜっていう。でも、自分の人生をかけた無性に登りたい一心で始めた本気の遊びですけどね。

伊藤 子ども時代、学校帰りの冒険の延長なんですね(笑)。

ーーところで、クライミングの小説など山において影響を受けた本や、好きでよんでいる本はありますか?

長門 山を始めた頃、学生の時ですね。植村直已さんの『青春を山に賭けて』はすごく影響を受けたました。 海外を放浪しながら、山への思いを膨らませていく過程に憧れた。当時の自分の心境に似ているようで、海外の山へ夢が広がりましたね。 クライミングをやり始めてからは、山野井泰史さんを描いた『ソロ』。 クライマーとは?目指すべき人の後ろ姿を、読んでいるようでいい目標になりました。

ーー遠征でも本を持って行くんですか?

長門 遠征のときは時間があるから、普段よりもけっこう読みますね。最近は、2017年にパタゴニアに行ったときは、上橋菜穂子さんの『精霊の守り人』を読んでいました。読み終わったらみんなにまわして。

ーーだから、パタゴニアのEL MOCHOのルートは『MORIBITO』っていうんですね。今回は、何を持って行ったんですか?

長門 『将棋の子』、『聖の青春』という将棋に関するおもしろい本があるんです。おすすめです。ぜひ読んでほしい。

伊藤 長門さん、将棋とかやるんですか?

長門 いや、全然やらない(笑) 僕、基本的に勝負事、きらいなんですよ。

伊藤


後編へ続く



長門敬明 プロフィール
1979年生まれ。「NAGATO CLIMBING SCHOOL」を川崎市で主宰。武蔵野美術大学在学中にワンダーフォーゲル部で山登りに目覚める。 その後、2年生の時に社会人山岳会の「秀峰登高会」に入り、 クライミングを始める。4年生から、毎年の海外クライミングツアーを欠かさずに行なう。フリークライミングを積極的に登る傍ら、元来の山好きが高じてアルパインクライミング、ビックウォールクライミング、高所クライミング、と様々な経験を培ってきた。フリークライミングは、特にトラデショナルなスタイルを好む。2011年、 ピオレドールアジアのゴールデンブーツ賞を受賞。

編集・取材・文 柳澤智子
インタビュー写真 檜山 泰弘

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2018/04/19