COLUMBIA

the key element
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境界線のない生き方、
それぞれのスタイル

思考もフィジカルも、毎日を全力疾走し続ける。第一線で活躍するクリエーターや表現者たち。そんな彼らは決まってオンもオフも境界線がほとんどないと語ります。都市でもアウトドアでも、誰とでも1人でも。コロンビアの2018年春夏コレクションは、どんな場所や状況でも自分らしくいられる服。それは、着る人の暮らしや考え方に寄り添い、ベーシックな要素になれるということ。


01ベン・デイビスBen Davisエディター
カルチャーコンサルタント

ベン・デイビス氏

ベン・デイビス氏

Detail
― 編集者として東京で活躍するデイビスさん。日本語が堪能な彼は、もともとはエンジニアを志していたという異色の経歴の持ち主だ。海外と日本を独特な視点でつなぐ彼の原動力は「人間」。人に対する興味が、常に彼を突き動かしているのだという。
オーストラリアから日本をずっと見ていた。旅行好きの両親は自分が生まれる前に、2人で日本の地方にバックパック旅行をした経験があったんです。そのエピソードを聞かされながら育ったせいか、幼いころから日本に強い興味を持つようになり、日本語も専攻した。大学を卒業して、メルボルンでサステナビリティ(持続可能性)に関する工学コンサルタント企業で働きました。けれども持続可能性の中心には「人間」が不可欠なはずなのに、関わるプロジェクトの中心はいつもビルや建物を「建てる」ことばかり。そうして3年ほど経った頃、思い切って会社を辞め、バッグひとつ抱え来日。地方都市の農家でボランティアをし、初めて「人間」の魅力を発見することができたような気がしました。そのあと東京に移ってからも、人間の魅力に溢れた文化やコミュニティが都市部に数多く存在することに感銘を受けました。それを自分なりの言葉と写真で表現し、国内外へ発信することを思いつく。まったく経験はなかったけど、それが編集者をはじめるきっかけになった。以来、ものと人間の関係や進化、そこから発展したまちづくりを題材に取材やコンサルタントを行うようになりました。かつて自分が考えていた理想のサステナビリティが日本にはたくさんあったんです。
― デイビスさんは、そのバックグラウンドもあってなのか、常に物事を双方向的に眺めています。海外から、日本から。エンジニアリングから、アートやカルチャーから、というふうに。では自身のオンやオフ、その切り替えについてどう捉えているのだろうか?
日本とはすごく相性が良いと感じます。来日して8年が経ってだいぶ慣れた部分もあるけど、仕事環境、生活環境の両方ともすごく気に入っています。生き方、暮らし方を含め、いまの自分を客観的に捉えたとき、社会にいちばん自分らしい表現ができているように感じられるんです。それは決して完成形じゃないけど、ひとつのステップとして。かつてのように会社に縛られる働き方や生き方ではなく、フリーランスとして、自分の選択肢で暮らしているからかもしれないですね。自分にとってのオフは、必ずしも休むという意味ではないような気がします。常にアクティブに動き続けるのがオフ。自宅の近くの公園や川沿いをランニングすることも楽しみのひとつ。週末だったら20-30kmも走ることだってありますが、疲れるという感覚に反して、体も心もスッキリする感覚のほうがむしろ強いんです。決まってクリエイティブなアイデアは、走りながら思いつくことが多いですしね。刺激やインスピレーションというのは、他人や外部から受けるものではないのかもしれません。自分にしっかりと向き合い、自分という存在から自分に与えるものなんだと思います。
カメラと筆記具
取材に赴く時に欠かせないアイテムは、カメラと筆記具。デイビスさん自身も共感するブランドのひとつ〈ポスタルコ〉のノートブックは、機能性とデザイン双方のバランスで、ずっと使い続けても決して色あせることのない魅力があるのだとか。

ベン・デイビス氏

ベン・デイビス
エディター/カルチャーコンサルタント
オーストラリア出身の編集者。日本の地方で農業を経験後、2010年より東京を拠点に活動。ローカルな視点から都市を紹介するオンラインマガジン「The Thousands」東京版の編集者として経験を積んだ後、フリーランスとして日本の人々、街や文化を国内外のメディアを通して発信、日本ブランドとの自社コンテンツを企画・制作にも携わっている。現在は編集、リサーチ、出版など幅広い分野で活躍中。

www.thewhitepaper.net

02haru.HIGH(er) magazine
編集長

haru.氏

haru.氏

Detail
― 自分たちがしたいことを表現するプラットフォームとして2015年に創刊した「HIGH(er) magazine(以下ハイアー)」。現在のメンバーは4人。チームでつくるインディペンデントマガジンだからできること。そのこだわりと編集長を務めるharu.さんの視点から捉える今、そしてこれから。
自分たちに正直につくっていること。たとえネガティブなことであっても自分が素直に感じたことを話し合う。それがハイアーのこだわり。自分たちがしたいことを表現できるプラットフォームが、ハイアーなんです。そして、周りにいるクリエイターの友達の作品をもっと知ってもらいたい。作品をつくりながらバイトを掛け持ちして頑張っている子たちが、そこで疲れ果てて本当につくりたいものがわからなくなっている姿を目の当たりにするのが悔しくて。そんな彼らがどんなふうに制作活動をしていけばいいか考えることが私の原動力にもなっています。ディレクションやマネジメントすることが性に合っているのかもしれない。それはハイアーを通して気づいたこと。卒業後は大学院に進む予定ですが、インターンを経験したりしながら将来は自分の会社をつくることが目標。その中で雑誌をつくったり、クリエイターやアーティストのクリエイティブマネジメントもしたい。大好きなラジオ番組もつくりたいと思っています。
― 4月で大学4年生となり卒業制作もはじまるというharu.さん。学生生活を送る傍ら、自身のアイデンティティとして確立したハイアーの活動、そして編集長としての自分。彼女にはそれらの自分を隔てる「境界線」のようなものはあるのだろうか。
学生生活とハイアーに境界線はないですね。休みの日も自分でコントロールして決めているけれど、何をしていても「これって活かせるかも」という発想は常に持っています。それもしんどくなることはありますよ。良くも悪くも境界線があやふやなので、パンクしちゃう時がある。そんな時は別の場所というわけではないけれど、何もしない日をつくっていますね。この間は朝から晩まで『金八先生』のドラマを見続けました(笑)。私は割とポジティブな方で落ち込んでもうまく転換しているかもしれない。ハイアーに参加しているみんなの健康状態や心理状態も気にかけています。私一人ではできないし、一人ではなくみんなでつくるからこそもっと大きなビジョンが見られるから。とりあえず、と思ってつけた「ハイアー」という名前は今も続いているけれど、技術も精神も常に上を向いていこうっていう意味なんです。
ノート・ペン・ゴム判・スタンプ台
いつも持ち歩いているという4つのアイテム。アイデアノートはその名の通り日頃のちょっとしたアイデアや打ち合わせのメモなどが走り書きやイラストとともに記されている。スケジュール帳は手書き派。使いやすさと間にいろいろ挟める仕様が気に入っている。発送するハイアーを持って出かけることが多いので、封筒に押すゴム判とスタンプ台はいつも携帯しているというのもフットワークの軽い彼女らしい。ネーム入りのペンはプレゼントでもらったもの。

haru.氏

haru.
インディペンデントマガジンHIGH(er)編集長。東京藝術大学先端芸術表現科学部4年生。ティーン時代を6年間ドイツで過ごし、大学入学を機に帰国。世界の小さいことから大きいことまで、日常のあらゆることを話し合っていける場をつくりたいという想いから2015年ハイアーを創刊。彼女たちが自由に感じるテーマを掲げ、クリエイターや読者が刺激しあう場所となっている。本誌では写真、アートディレクションも担当する。第5号となる次号は2019年1月発行予定。

www.instagram.com/hahaharu777

03今川拓人Takuto Imagawaチーフバイヤー

今川拓人氏

今川拓人氏

Detail
― 外苑前にあるライフスタイルショップCIBONEのチーフバイヤーである今川さん。日本を代表するそのアイコニックなショップの目利きである彼のスタイルは、本人曰く「一般的に見たら実に生産性が悪い」そうだ。しかし逆に言えば、効率を追い求めたら決して得られない特別な何かを追求している姿勢の現れなのかもしれない。
僕の1日は、毎朝誰もいないショップを一周することから始まります。全部の棚やレイアウトを眺めると、見えてくるものが必ずある。物と物同士が果たして共存できているか。コンテクストとして、なにか欠落した要素がないかどうか。あえて売上などの客観性のあるデータに頼らず、ショップの温度感や動きを自分の感覚だけで見つめるようにしています。そしてこれらを確認する作業は決まって次のアイデアをポロッと落としてくれることが多いんですね。だからバイヤーになって5年、僕にとって欠かすことのできない日課になっています。CIBONEでは家具、雑貨、そしてキッチン関連など。ジャンルは多岐にわたります。商品を選定するときに頼りにする感覚は、その評判でも、売れ行きでもないんです。形や色も含め傍に置いておきたい美意識を感じるかどうか、モノの裏側にある背景やストーリーを読み込み、長い期間暮らしのなかで人々に愛されるプロダクトであるかどうか、など。そのために、日々自分の物差しや精度を高める必要があります。こうした作業はとにかく時間がかかるし、感覚を磨くためにバイヤーでありながらもお店にも立ち続けようとしています。こういったスタイルを貫くとき、とにかく「生産性の悪い男」だな、とも思います。けれど最近では、このやり方は長い目で見たら、ただ単に効率の悪いやり方だとも思えなくなってきました。
― 一見、遠回りをしているように見えても、結果的に替えの利かない仕事につながると今川さんは言います。また「物を買う」というスタイルも意味も変化するなかで、大切なことを伝えるショップという空間はますます重要だ、とも。その分、今川さん自身の時間は減る一方なのだが。
バイヤーの仕事は、作家や物と出会って、選んで、交渉して、仕入れて、運ばれてきて……。お客様に届くまでがとにかく遠い仕事だな、とも思います。自分の尺度で選んだ物の良い点を、買う人にひとつでも多く伝えたい。ショップは作り手と買い手の中間にいつも位置することで、流通業のなかでバランスを持っています。目立つ仕事ではないけれど、その両者をつなぐ潤滑剤のように、ぐっと距離を縮める存在でありたいと常に考えているんです。こういう仕事の仕方だから、プライベートとの境界線ってとても曖昧じゃないですか。映画を見ていても本を読んでいても、なにかにつけ仕事のヒントをさがしちゃう。全部仕事に循環できればな、とついつい考えちゃうので。だから、完全にオフ状態になれるのは、家族といるとき。自宅の玄関の扉を開けた後は、なるべく仕事の話をしないようにしています。特に子供といるときが最も仕事と切り離されている感覚はあります。あとはヘッドホンで音楽を聴き「始めた」ときくらいしかないかな。ただし、気持ちが非日常でいられるのは前奏までなんです。その先を深く聴いていくと、だんだん日常に変わっていっちゃう。そこからは「じゅわー」っと仕事のこと考え始めちゃったりしますからね。一人の人間としても、生産性は改善しませんね。
スルール
まだCIBONEで働く前、そのストーリーや作風が気に入って購入した〈ピート・ヘイン・イーク〉のスツール。現代の暮らしにハンドメイドの良さや手触り感を残すスタイルは今でも健在だ。今ではオランダを代表する作家でありブランドとして、CIBONEのコンセプトを体現する稀有な存在でもある。

今川拓人氏

今川拓人
CIBONE / チーフバイヤー。2008年株式会社ウェルカム入社。ショップスタッフを経て、現在はチーフバイヤーとしてCIBONEの商品の選定やイベントの企画などを行う。

http://www.cibone.com

04山口奈津子Natsuko Yamaguchiバリスタ

山口奈津子氏

山口奈津子氏

Detail
― 今やコーヒーショップは、地域の日常をつくるための最重要拠点のひとつである。一方で、その土地にはじめてやって来た人にとって地域の玄関口の役割だって担う。そんな日常と非日常が行き交う場所でバリスタとして活躍する山口さんのトレードマークは「笑顔」だ。
豆の管理をする、コーヒーを作る、サービスをする。ワインでいうとソムリエのポジションがバリスタでしょうか。水とコーヒー豆だけ、必要であればミルク。そんなシンプルな要素の組み合わせで作られるコーヒー。プロのバリスタを始めてから約10年が経ちますが、いまでも理想のコーヒーを追求し続けています。一番むずかしいところは、常に良いクオリティのコーヒーを作り続けるということ。たとえ1杯でも手を抜くことが許されない。もし手を抜いたとしたら、私はもうバリスタではいられなくなってしまう。そう思って集中していると、コーヒーを淹れているときの自分は“恐い”と言われてしまいます。だから接客のときや、コーヒーのワークショップをする際は、なるべく笑顔でいられるように。そしてお客さんにとってコーヒーを淹れることや飲むことが、できるだけ愉しいと思ってもらえるように、最近は特に意識するようになりましたね。コーヒーは精神的な側面ではなく、豆のコンディションや挽き目、時間や温度など。すべて科学的にアプローチして抽出すれば、みんなが美味しく淹れることができるという飲み物です。そんな誰にとってもフェアーなコーヒーという存在に、今でも強く惹かれてしまうんですよね。
― スペシャリティコーヒーの認知が進み、あたらしいコーヒーの情報が次々と飛び交う昨今。そんな今でも、美味しいコーヒーを淹れることは、いたってシンプルな作業だという。山口さんが働くONIBUS COFFEEは、世界中を歩き、選んだ良質なコーヒー豆を自ら焙煎し、目の前で一杯ずつ提供する。そんな毎日を積み重ねている。
飲んだ人から「美味しい」って言ってもらいたい。私にとってその手段がコーヒーであることは今後もきっと変わらないと思います。できればおばあちゃんになってもコーヒーを淹れ続けていたいと思うくらい。たとえプライベートで旅行していても、国内でも海外でも、ついついコーヒーショップを真っ先に探してしまいます。さすがに、たまにはコーヒーから離れることができる趣味を作ろう。そう思って工房を借りて彫金のアクセサリーづくりを始めたり、ヨガに挑戦しても「この技術や体の動かし方はコーヒーを淹れる動作に似ているな」とか考えてしまう自分がそこにいます。でも、よくよく考えてみたら、自分にとってプライベートと仕事の境界線を引かなくても続けられる運命の仕事がバリスタだったということ。その境目がなくなることによってストレスがなく、常に一定のリズムの自分でいることができる。自分にはコーヒーがすごく合っていた。そしてコーヒーを通じて自分にも他人にも正直でいられることが、なによりも幸せなことだと気づいたんです。
ミルクピッチャー
有名人で一番好きな人はイチローと言い切る山口さん。彼女が大切にするALESSIのミルクピッチャーは最初にバリスタとなったときの師匠が使用していた特別な思い入れのあるものと同型。コーヒーが美味しくなる理論を科学的に追求するのがとにかく好き。山口さんのストイックさは、材料だけでなく道具にも存分に発揮されている。

山口奈津子氏

山口奈津子
ONIBUS COFFEE 奥沢店マネージャー/バリスタ。島根県出身。学生時代はシェフを目指し、大阪あべの辻調理専門学校に入学。東京のイタリアンレストランを経て、バリスタを目指し、2013年より海外へ。その後ONIBUS COFFEE中目黒店のオープンに伴い2015年に帰国し現職。

http://www.onibuscoffee.com

05越智康貴Yasutaka Ochiフローリスト

越智康貴氏

越智康貴氏

Detail
― 小さな頃から「この人といえばこれ」という何者かになりたかったという。もともとカーネーションとバラの違いもわからなかったというが、今では「越智さんといえば花」という存在に。そんな彼の花屋にはどんなアイデンティティがあるのだろうか。
おしゃれさや華やかさではなく、植物の生態として花が好きなんです。花は形や色が優先されがちだけど、僕の場合「花が生えている感じにしたい」とか「咲いた花の部分だけではなく、茎も葉も引き立つようにしたい」というようなことをイメージするので、それを具体化するための技術として色や形を選別しているんです。そしてそこに加えたいのがファンタジーの要素。たとえば、花はいろんな国でいろんな種類がいろんな時期に咲くけれど、切り花だからこそいっせいにまとめることができる、みたいなことだったり。そういったイメージをもったものづくりにこだわっています。でも説明的にはしない。お客さん自身で発見する喜びが大切だと思っているから。 ひとつのビジュアルに対してアーティスティックでありたいから、食事をしたり本を読んだり、遊んだり旅をしたり……と、人としての生活をきちんと送るようにしています。その体験のすべてが仕事となり、ビジネスとしてもきちんとつながっていけると思うんです。それが自分のモチベーションだし、何をしていても仕事に帰れるこの環境が気に入っています。
― 「大げさにはしたくないけれど」と前置きをしながらも、ひとの気持ちに寄り添いながら、さまざまな形で花を提案する越智さん。一輪の花からでも居心地のよい暮らしへと変えられる。そんな新しい発見のためのヒントを日々発信し続けている。
コーヒーを買う気持ちで花を買う、みたいな存在になってほしい。仕事の合間に街を歩いていて、デリジェンスパーラーのパッケージ(透明の袋に取手がついたもの)を持っている人同士がすれ違うのを見たときに、「あ、自分も文化的なことを目指していけているんじゃないかな」って思ったことがあったんです。だから店も増やしたいし、新しいものを提案していきたい。僕はプレイヤーであり経営者でもある。一人のアーティストとして活動していたらそうは思わなかったかもしれないです。
丁寧じゃなくてもいいから、みんながそれぞれの形で居心地のよい暮らしをしていけばいい。花を飾る場所がないという人もいるけれど、いい家具を揃えなくても小さいテーブルに花が一輪飾られているだけでいいし、それで会話が弾むことだってある。花と音楽があれば、それだけでインテリアは成立するんです。でもそれって体験してみないとわからない。だから、SNSで花のある私生活をアップしたり、インテリアの雑誌でスタイリングをしたり、そんなことをしながら、僕なりに提案し続けています。声高には言わず、少しずつ。
花ばさみ
花屋の毎日に欠かせない花ばさみ。特別なものではなく、昔から市場で普通に流通しているもの。初めて花屋でアルバイトした時から使っている形で、硬い枝も繊細な花もカットできる使い心地の良さが気に入っている。落とすなどして不調になった時も、毎回同じものに買い換えているという、定番のアイテム。

越智康貴氏

越智康貴
株式会社ヨーロッパ代表取締役 / フローリスト。2011年にシアタープロダクツのショップ内にてフラワーショップDILIGENCE PARLOURをオープン。現在は表参道ヒルズ内にて同店を運営。ショップの他イベントなどの装花や雑誌、広告などでのスタイリングや植栽、造園などさまざまな分野で活動を広げている。この夏新店のオープンも予定している。

www.instagram.com/ochiyasutaka

http://diligenceparlour.jp/

06工藤桃子Momoko Kudo建築家

工藤桃子氏

工藤桃子氏

Detail
― 父親の海外赴任のためにスイスで生まれ育ったという建築家の工藤さん。幼少期を多民族な国で過ごした経験があるだけに、仕事や人生の捉え方や選択もユニークで多様的だ。なぜ建築なのか? 建築以外のアウトプットにも、工藤さんらしい表現は存在するのだろうか。
私が依頼される仕事は、人の無意識を具体的なものへと翻訳する仕事だと思っています。気持ちがいい、居心地がいい、ついふらっと空間に引き寄せられる、つい座っちゃうなど。設計者としてそれらを意識化させることで、人に行動を起こさせたりするわけです。建築になると、条件が複合的になったり、使い方が複雑だったり、スケールが大きくなったりします。その莫大な可能性の中から最適解を探すことが本来はすごく大変なんでしょうが、私はそこが純粋に得意なんだと思います。なぜ得意なのか、と聞かれると、とにかく興味があるからとしか言えませんけどね。この人は何を考えているんだろう? どうしてこの場所に人が集まってくるんだろう。普段から、そんなことを考えては、要因分析や最適解を探してしまう自分が常にいます。導きたい行動を起こすために、アウトプットは建築以外のものでも本来は良いのかもしれません。でも、難しいことは承知の上で、私は建築に挑戦していたい。同じ場所に2度作ることは許されない建築は、経験や知識、創造性をフル動員してそれらのプレッシャーに打ち克つ努力も必要。でもそういったこと自体が建築の一部であると考えています。
― 工藤さんの言葉の端々からは、大好きなことを仕事にしてしまった幸せと辛さの両方が垣間見える。意識的につくるオフはほぼゼロで、今日もまた建築に取り組む日々だという。誰でも「ある程度」は作れてしまう時代、大切なのはオタク的な執着とプロ意識なのだとも。
独立して事務所を構えてからは、気を緩める時間が極端に減った気がします。もともと切り替えが苦手ということもあり、仕事で抱えた問題は仕事のなかで解決しようとする傾向にありますし。建築がオタク的に好きだからまだ救われていますが……。だから意識的につくるオフもほとんどゼロに近いです。ごく稀に仲間に誘われて、ボルダリングに出かけることがあります。しかし私はそこでも持ち前の執着心を発揮してしまう。ひとつでも攻略できないルートがあれば、ひたすら同じルートを出来るまで繰り返す。まったく気持ちが休まるどころではありませんよね。ただボルダリングのように、感覚とロジックをバランス良く使いわけるようなスキルが必要なスポーツは、私の仕事に活かせる要素が実は多いのかもしれません。建築や設計の仕事は本来、ロジックや条件に支配されるもの。けれども、突然「感覚」側にジャンプする瞬間があって、それは実にスポーツ的な衝動が必要になるんです。決して数値化はできないような「腑に落ちる/腑に落ちない」みたいな感覚に、私の場合は最後の最後は決断を委ねることが多いんです。他人に理解されることはとても難しい領域ですが、それもまた建築の面白さのひとつではないでしょうか。
シャープペンシル
工藤さんが一級建築士を取得した試験の際に使っていたシャープペンシルは、10年来のパートナー。初期のスケッチ段階から具体的な図面を書く段階までに3本のペンを使い分けるという。スケジュール管理からメモまで、いまでもほとんどすべての情報が「スーパーアナログ」なのだそう。

工藤桃子氏

工藤桃子
一級建築士。東京生まれ。小学校3年までスイス・バーゼル、およびチューリヒで育つ。2006年多摩美術大学環境デザイン学科卒業。2013年工学院大学大学院藤森研究室修士課程修了。松田平田設計勤務、DAIKEI MILLSデザインユニットとして活動ののち、2015年MOMOKO KUDO ARCHITECTS設立。

http://momokokudo.com

07小畑多丘Taku ObataB-BOY彫刻家

小畑多丘氏

小畑多丘氏

Detail
― 高校時代から好きで続けてきたブレイクダンスを、ダンス以外の形で表現したい。そうして辿り着いたのが彫刻家として作品をつくることだった。「B-BOY彫刻家」と称したアーティスト、小畑多丘が生み出すもの。私たちを圧倒させる彼の作品にはどんなフィロソフィーが込められているのだろうか。
「ブレイクダンスを違う形で表現したい」と芸大を目指して予備校に通っていました。最初は自分が出演した映像作品を作ろうと考えて映像を学んでいましたが、何かをつくる側の方にどんどん興味がわいて、映像以外の分野にも目が行き、彫刻でB-BOYをつくったらおもしろいかもしれないな、と思って彫刻を選んだんです。基本は木彫ですが、陶器の作品や写真作品などもつくります。どれもB-BOYから派生した表現ですが、常に考えているのは「重力」と「空間」のこと。ブレイクダンスも彫刻も、どちらも“重力に対してどうあるべきか”ということを意識しています。その対比として「無重力」の表現も手がけていて、木彫の物体を垂直に上に投げ頂点に達した瞬間を撮る、その時、物体は一番重力と引力から解放されていて一番無重力にちかい状態だと思うのでその瞬間を切り取った写真作品も作っています。彫刻の場合、空間の中にあるから一目で立体だとわかるし、その空間を体感できる。けれど、写真は平面なので空間がない、でもすべてを写すので物体を見てそれが立体なのかどんな空間なのかを想像させる。彫刻は体感型で写真は想像型の空間表現だと思っています。なので表現方法が変わっても表現したい事は重力と空間で同じ事なんです。写真のビジュアルは合成すれば簡単に出来ることだけどそれではおもしろくない。1枚の写真のために2000回物体を投げれる。説得力を持たせるためにもリアルな表現を追求しています。
― 感覚だけでもなく、緻密につくり込むのでもない。彼独自のバランス感覚がそこにはある。自分自身ととことん向き合った先に見つけたそれが、彼が原動力を失わずに活動を続けられる所以であり、揺るぎないマインドを形成しているのだろうか。
ファッションもアートも本もいろいろなことを教えてくれるけれど、流されることもあるからあまり見ません。自分で気づくことが大事で、自分で体験や発見したことは忘れないと思っているから。なぜ自分はバレエじゃなくてB-BOYなのか、なぜ自分はこれが好きでこれが嫌いなのかとか、自分のことをシンプルに考えるだけでおもしろいし、それこそがオリジナル。何を選んでどう生きて来たかという「蓄積」が今の自分により自信をつけさせましたね。「塵も積もれば山となる」っていう言葉が好きで。よくも悪くも自分の蓄積が山となり、蓄積されなかったら流れていく。たとえ流されたとしても、それをしっかり意識さえしていれば大丈夫ということを知っていることが僕の原動力かもしれない。そんなふうに自分をしっかりさせてこそいい作品がつくれると思っています。「すごい」だけでも「かっこいい」だけでもだめ。「すごくてかっこいい、そしてヤバイ」そんな作品を作り続けたい。それはきっと死ぬまで終わらないですね。
レーザー水準器とスケール
作品づくりには欠かせない道具、レーザー水準器とスケールの数々。建築の現場ではおなじみの道具のようだが、彫刻作品でここまでフルに活用し綿密に計測しながら作る人も珍しいのだとか。常に「重力」と「空間」を意識した彼ならではのこだわりだ。

小畑多丘氏

小畑多丘
1980年、埼玉県生まれ。自らもB-BOY(ブレイクダンサー)であり、その身体表現技術や躍動を彫刻でも精力的に表現し続け、台座の無い木彫による人体と衣服の関係性や、B-BOYの彫刻を端緒に生まれる空間を追求、緊張感と迫力あふれる作品を展開。

https://takuobata.tumblr.com

www.instagram.com/takuobata

08岩井謙介Kensuke Iwai編集者
自由大学ディレクター・
キュレーター

岩井謙介氏

小畑多丘氏

Detail
― 社会の選択肢を増やして、もっと多面的で寛容にしていきたい。そう語る岩井さんの活動は多面性そのもの。あるときは雑誌制作者、北欧マーケットの主宰者、そしてあるときは自由大学の学びのキュレーター。単に考えを発信するだけでなく、行動力の人。ときに行動が思考を追い越してしまうような。
人によって捉え方がありますが、キュレーターに近いことを仕事にしています。出会うことがなかった人同士や、物と人、それらをつなぎ合わせる作業。自分でなにかを作り出すというよりは、場作りやストーリー作りをすると、それを面白いと言ってくれる人がいて、集まってくれる。そしてそれがコンテンツになっていくんです。自由大学も、それ以外の仕事も一緒です。自分のなかで、何をやっているかは、その時々でいろいろですけど「これがやりたい」っていうのは明確にあります。それは世の中をもっと多面的で寛容にしたいということ。たとえば僕の好きな北欧。彼らはみんな考えていることはバラバラ。個性も自由でときには好き勝手でもある。ただ自由を謳歌するのではなく、いろんな考え方を持っていることをみんなが受け容れているからこそ、社会や国家がバランスよく成り立っている側面を強く感じます。私たちもそうなれば、もっと選択肢が増えると思いますし、自分が選んだことに自信を持てるような社会を目指せるんだと思います。尊敬する人の言葉に「和して同ぜず」というのがあります。協調性と引き換えに大事な個性は消す必要はない。いつも忘れないようにしている言葉です。
― 広い視野で物事を捉えるようにしているという岩井さん。一見対局にある物事のなかからクリエイティブは生まれてくるといいます。岩井さんが会社員だった頃から行っている読書の実験は、ランダムな中に共通性を見出すための頭の体操のようなものだ。
仕事じゃない瞬間ってやっぱりないですよね。常にいろんなことがリンクしている気がしていて。普段から一見共通している物事の中に違いを見出したり、違うもの同士から共通性を見出しています。昔から本が好きっていうのもありますけど、ランダムに毎月10冊の本を読んでいます。その10冊のなかの共通性はなにか、世の中はどこに向かっているのか、今こういうことを大切にしている人が多いのか、などを考えるんです。ときには本来自分は選ばないだろうな、という本を見つけてきては、関連付けてゲームのように読み進めるんです。それは決して仕事のためじゃなくて、ただ単に面白いからやっています。そうすると結果的にそれが仕事にも活かされるようになってくるから面白いですよね。だから、読書は自分のなかでリラックスできている時間と呼べるのかもしれない。海外旅行から帰ってくると、いつもの東京の風景がすごく新鮮に見えることがありませんか。普段散歩していても気付かなかった、見慣れた建物の螺旋階段の美しさに目を奪われてしまったり。対局や、遠くのものに触れたからこそ見えてくる景色や発見。多種多様な考え方や、経験をしている人が集まったとき、決まって面白いことが生まれるのは、きっと同じような原理なんじゃないかと思います。
カップ・ノート
デスクワークをするときに愛用しているもの。デンマークのクラフトの島、ボンホルム島の景色にある色をそのまま再現したカップ〈Oh Oak〉。アナログで文章を綴る意味を模索する〈NOTEM〉のノート。いずれもプロダクト単体としてではなく、それを暮らしで使う意味を岩井さんが見出したアイテムだ。

岩井謙介氏

岩井謙介
編集者/自由大学ディレクター・キュレーター 大学4年から現在まで北欧への旅を続ける。大手通信会社に就職し、営業として自治体や大企業向けのコンサルティングを行なうかたわら、自由大学のキュレーターとして活動。そして2016年フリーランスへ。現在は、物事を編集し価値の選択の幅を広げ、それを誰かに伝えることを軸に、都市・デザイン・メディアを軸とした活動を行なう。自由大学の企画運営のほかには、青山の国連大学で開催しているクラフトマーケット「Liver -Nordic Lifestyle & Craft-」を主宰。またライフスタイルマガジン「a quiet day」の取材・デザイン・ライティング・編集・出版や北欧のクラフトを扱う編集型オンラインショップを運営している。

https://aquietday.jp

  • Photograph: Kento Mori
  • Styling: Kumiko Sannomaru [KIKI inc.]
  • Hair&Make: Katsuyoshi Kojima [TRON]
  • Direction & Text: Takanori Hayashi, Mana Soda [Polar Inc.]