最後の秘境、チベット。どこまでも広がる草原、蒼い空に包まれた聖地を旅人、桃生亜希子が訪れた。ちなみに、チベットに行くにはいくつかルートがある。今回は西寧から「青蔵鉄道」を使う方法を選んだ。チベットは標高が高く、ラサ市街で3700m以上と、富士山に匹敵するレベル。ラサには空港があるので、飛行機でも訪れることはできる。しかし高山病の恐れもあるので、高度順応しつつ、列車でののんびり旅を楽しむことにした。車窓からの絶景や、乗り合わせる中国の人との出会いも楽しみだ。成田発の航空機は上海を経由し、西安に到着。ここで一泊し、翌日、青蔵鉄道の発車地点である西寧へフライトがもう一度待っている。チベット。どんなところなのか、ホテルで体を休ませながらも、自然と胸は高鳴っていた。
西寧はイスラム教徒が多い都市として知られる。ムスリム独特の格好をした人が街中を行き交っている。鉄道の発車時刻まで、街を歩いてみた。時折、「冬虫夏草」なる看板があり、なんだろうと聞いてみるとチベット特産のキノコの一種とのこと。冬は虫の形をしているけれど、夏にはキノコとなってニョキニョキ生えてくるらしい…。いわゆる漢方の一種で、チベット産のものは質がいいと、店員さんは教えてくれた。虫なのかキノコなのかナゾだ。そしてあっという間に列車の出発の時刻になり、チケット片手に乗車窓口へ。思いのほか遅れもなく定時に出発。さっそく窓際をキープした。
青蔵鉄道の乗車時間は約24時間。それもそのはず、西寧からラサまでは1956kmもあるのだ…。乗客の中には、中国人観光客にまじって、ラサへ巡礼に向かうお坊さんや巡礼者もちらほら。同じボックス席の巡礼者と、お互いの国のことを話した。チベットの文字を旅の手帳に書いてもらう。独特なサンスクリット文字に愛嬌を感じた。途中いくつかある駅で、少し停車時間があったので、ホームに出てみた。空気は冷たく、心なしか薄く感じる。車内は気圧が調整されているので、なんともないけれど、すでに標高は4000mを越えた。列車は真夜中に最高の5000m地点を通過し、ラサへと向かう。窓から見える壮大な風景にただ見惚れた。放牧されているヤク。遠くに見える雪山…まさにあっというまの列車旅だった
ラサに到着。迎えてくれたガイドのジョガさんはチベット民族。チベットは外国人の個人旅行はいまだ認められていないので、ガイドに案内してもらわなければならない。でも現地のガイドなら、宗教的、文化的にあらゆる場所を熟知しているし、チベットに暮らす人じゃなければ、理解できないスポットもたくさんある。用意してくれた車でさっそく市街地へ繰り出す。すると遠くに白い大きな建物が見えてきた。これがポタラ宮だ。ラサ市街の中心に鎮座し、どこからでもその姿を望むことができる聖地はダライ・ラマの宮殿だ。
ポタラ宮の内部へ。見学の制限時間は1時間。たくさんの観光客が訪れるため管理は厳しい。もし制限時間内に出口に辿り着かなければ、ガイドの会社は次の見学の予約が出来なくなってしまうとか。内部は撮影禁止なので、宮殿の入口で撮影。近づいてみるとその威風と規模の大きさに圧倒される。まぶしい壁の白は毎年塗り替えられると聞いた。順路に沿って進んでいく。空気が薄いので階段を上るだけで息が切れてしまった。奥に進むと歴代ダライ・ラマの霊塔や大きな仏像が並ぶ。ポタラ宮には1000もの部屋があると言われるが、そのほとんどが非公開となっている。
青、赤、黄色のタルチョがはためくチャクポ・リ(薬王山)はポタラ宮から歩いて至近にある小山。お経の彫られたマニ石をうず高く積んでできたマニ塚や、極彩色の仏像が描かれた摩崖石刻など見所が多い。ポタラ宮を展望できる塔は、撮影スポットとして観光客に人気が高く、見渡すかぎり宮殿よりも高い建物は見当たらない。というのも、法律でラサ市街ではポタラ宮以上の高さの建物を造ることは禁じられている。ダライ・ラマ不在の現在も、その権威は見かけ上は保たれている。