【CSJ magazine特別対談】為末大×トレイルランナー上田瑠偉(後編)
2018/03/22
アウトドアにまつわる情報をお届けしているCSJ magazineのスタート2周年を記念して、400mハードルで活躍し、現在はDEPORTARE PARTNERSの代表としてスポーツとテクノロジーに関わるビジネスに取り組まれている為末 大さんと、CSJ magazine登場回数1位のコロンビアスポーツウェアジャパン所属のトレイルランナー上田瑠偉選手の対談、前中後編の後編をお届けします。(前編、中編とあわせてご覧ください)
シューズと義足の関係性
ーーさて、ここからはより具体的なことを聞きたいと思うのですが、トレイルランでは、特別なシューズを用意する必要があるんですか?上田選手の好みが知りたいです。
上田 トレイルランの場合は、足が「守られている」ことが大切です。岩の上を走ったりすることもあるので、下からの突き上げに対して衝撃を吸収する必要があります。だから、かかとは厚めのもの。つま先からかかとに向けて少し厚みが出ていて、そのドロップ差が4mmから8mmくらいのものが好きです。
為末 重さはどれくらいですか。
上田 重いですよ。300gくらいです。トラックやロードの選手はもっと軽いものを好むと思いますが、フィット感やプロテクションを重視すると、これくらいの重さは必要になってきます。
ーーいま、ランでは「厚底シューズ」が注目されていますが、厚底の方が足を守ってくれるという感覚はないですか。
上田 不整地を走るので、安定性の面ではもう少し薄い方が安心感を得られます。それと、100kmや長い距離を走るとなると、耐久性も重要になってきます。
為末 僕はずっと義足の開発に携わってきましたが、いま流行の厚底シューズの形状と、スピードを生み出す義足の形状が似ていることに気づいたんです。
上田 面白そうですね。
為末 地面からの反発力を生み出すため、義足の部分に「たわみ」を作るんですが、このたわみと、厚底の形状が極めて近いんです。速さを追求していくと、同じ発想になるんだなと感じましたね。かかとの方を高くすると、地面との間に生まれた「ひずみ」を、前方への推進力に効率的に変えることが出来るんです。
ーー速さを追求すると、何かを犠牲にしている面はないんですか。
為末 厚底シューズは、耐久性に課題を抱えていると言われています。それは義足でも一緒で、カーボンを何層にも重ねてたわみを作るんですが、回数を重ねると、どうしても層の間に隙間が出てきて、反発力が弱くなってしまう。これが今後の研究課題になっています。
上田 義足とシューズが重なってくるとは……。いろいろと発想を広げることって、大事
ですね。
為末「トレイルラン、やってみたい」
為末 上田選手と話をしてみて、僕にもたくさん発見がありました。僕が長距離に適性があったとしたら、ロードよりもトレイルランの方をやってみたいと思えましたから。
上田 それは、うれしいです!
為末 僕は体質、性格的にひとりで黙々と走るのが苦手なんです。きっと、トレイルラン
なら景色が変わることで発想も変わるだろうし、いろいろな刺激を受けられそうで。
上田 いろいろな世界の方と交流されている為末さんにそう言っていただけると、勇気が出てきます。これから、自分なりの言葉でトレイルランの魅力を伝えていきたいと思います。
為末 トレイルランには金脈が眠っている気がしますよ。
上田 走って、それを見つけます!
文/生島淳
為末大
1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。
男子400メートルハードルの日本記録保持者(2018年3月現在)。
現在はSports×technologyに関するプロジェクトを行うDEPORTARE PARTNERSの代表を務める。
新豊洲Brilliaランニングスタジアム館長。主な著作に『走る哲学』、『諦める力』など。
上田瑠偉
1993年長野県生まれ。トレイルランナー。2014年の日本山岳耐久レース。大会記録を18分も更新し、夢の7時間切り目前まで迫る走りで最年少優勝を果たした。2016年はアメリカで開催された100㎞レースを大会新記録で優勝。スカイランニングと言われるより競技性が高く、標高の高い山で行われるジャンルのU-23世界選手権で優勝など、海外でも結果を残している。コロンビアスポーツウェアジャパン所属。
2018/03/22