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コロンビア登山学校「WIN THE SUMMITE ACADEMY 第8回 雪の穂高連峰の入門コース 西穂高独標」【イベントレポート】

2019/04/25

2019年3月30日(土)-31日(日)
国際山岳ガイド・近藤謙司氏が講師を務める、コロンビア登山学校「WIN THE SUMMITE ACADEMY 第8回 雪の穂高連峰の入門コース 西穂高独標」に参加してきました。
街では桜の開花宣言も始まった3月最後の週末でしたが、西穂稜線は厳冬期さながらに激しく吹雪く荒れ模様。その2日間をレポートします。
文章と写真=杉村航

3月も終わりを迎える週末、僕らは新穂高ロープウェイの駅にやってきました。
ゲストは常連さんが多いのかと思っていたけれど、初めての方が多く、集まった皆さんは緊張気味です。
ゆるゆるとアドベンチャーガイズ代表で国際山岳ガイドの近藤謙司さん(以下、ケンケン)が挨拶を始めます。時おり冗談を交えながら落ち着いたトーンで喋ってくれるので、リラックス効果抜群。5分もすると参加者の皆さんも和やかなムードになってきています。

さすがケンケン!

集合直後の模様。初めての冬山に表情がこわばっている人も多めです

装備を確認した後、いよいよ出発。
新穂高駅から第1、第2ロープウェイと乗り継いで標高2156mの西穂高口駅へ一気に高度を上げます。ロープウェイを下りたらまずは休憩。お茶を飲んだりしながら時間をかけて準備を進めます。というのも、乗り物で一気に標高を稼いだので、ここでじっくり高度順応をしてもらう配慮です。

一方、その間にガイドたちはこの状況に対応する作戦会議中。山岳ガイドの北村さん、川崎さん、そしてイノッチ

急ぐことはありません。
踏み跡もしっかりついているので、西穂山荘までは2時間もかからないくらい。ちょうど風も穏やかになってきています。
おそるおそる外へと足を踏み出すと、そこは一面の雪景色。
一気に冬に舞い戻ったようです。

スタート地点の西穂高口駅の出口

ゲスト12人。ガイドは4人いるので数人ずつパーティーに分かれて雪の回廊を歩きだします。
今回は雪山登山が初めての人や経験の浅い人の方が大半みたい。まずは今夜宿泊する山小屋、西穂山荘まで足慣らしをしながら、ちょっとずつ雪上歩行のノウハウを身につけてもらうようです。

今日のコンディションだと西穂山荘まではアイゼンなし

「アイゼンを付けるのは雪上を歩くのが上手になってから」
「アイゼンを付けると適当でも歩けちゃうから、逆に危ないです」
足裏全体を平らに地面に置くフラットフッティングとそのコツなど、雪上歩行のノウハウを分かりやすく説明しながら、ゆっくりのんびりと進んでいきます。

新雪が降り積もった森の中は厳冬期さながらの厳しさと美しさが同居しています

森の中は緩やかなアップダウンを繰り返しながらトレースが続いていきます。激しく吹き荒れる風雪も樹々が防いでくれているのがありがたい。ゲストの皆さんも快調に歩みを進めています。ここぞとばかり、積極的に登山の質問をしていました。

ちょっとだけ急な下り。狙い通り!いただきました~

アイゼンを付けていないのでソールのグリップをフルに使えないとスリップします。膝を前に出して腰をやや落とすのがコツです。

悪天候とはいえ、見慣れない美しい雪景色にテンションも上がります

西穂山荘への行程の半分くらいで小休止。

降りしきる雪、全身がどんどん白くなっていきます

倒木の下を通過。ザックの高さも考えないと引っかかるよ~

このルートいちばんの急坂にも疲れた様子もない皆さん。ケンケンが頻繁に振り返りながら、足の置き方など的確なアドバイスしてくれています。おかげかすこぶる順調に標高を上げていっています。

稜線が近づくといよいよ風が強まり、雪が吹きつけます

横なぐりの風と雪に打たれながらもメンバーの表情も明るいまま。ここまでくれば西穂山荘へはあとわずかです。

「指先は冷たくなってない?」腕をグルグル回して血行を良くする運動を実践中

夏のコースタイムより早いくらいで西穂山荘に到着できました。達成感と安堵から自然と笑みがこぼれます。

もう西穂山荘までは目と鼻の先

荒れた天気の日こそ、快適な山小屋の存在が心強いものです

だが、ガイドのイノッチ率いる常連さんパーティーは、山小屋に入ることなくそのままアイゼンを付けてトレーニング開始していました。意識高い~

耐風姿勢をレクチャーしながらの登り

楽しんでますか~?

下りは足を横に向けないで、つま先を下に向けて足裏をフラットに雪面へコンタクト

こんな天候にも関わらず、山荘は想像以上に賑わっています。まずは凍りついた装備を乾かすところから。
乾燥室だけでなく、部屋の周りの荷物棚からもムンムンとした熱気が漂っています。おかげで僕のカメラとレンズは長い時間に渡って曇りが取れませんでした。寝床を確保しているうちに食事の時間です。
ここのご飯はボリューム満点で、ご飯と味噌汁はおかわり自由。
食堂は登山者たちの笑顔と活気で溢れかえっていました。

食事の途中ですが、ケンケンはすでに幸せそうに寝ています

そして舞台は夜の部へ。

食後はハーネスやガチャ類のチェック

なんと第1部は、参加者たちが自主的にガイドに質問攻め。さすが皆さん熱い!第2部は山小屋の正しき過ごし方!お酒を少々……。昼に出会ったばかりのメンバーもいつしか皆すっかり打ち解けていました。

乾杯後の自己紹介タイムでは、本日の天候が悪いのは自分のせいでないと言わんばかりにみんなこぞって「晴れ男・女」アピールしていました……

小屋の外は相変わらずゴーゴーと唸りをあげて風が通り過ぎています。明日も予報通り荒れ模様なのでしょうか。

翌朝は朝食後、装備と心の準備をゆっくりとしてこわごわと外へ出てみます。「穏やかな吹雪だね」
例によってゆったりとした口調で話すケンケン。
山荘から上はさらに荒れているようで、先行していたパーティーも早々に引き返してきていています。
当初、目指すは西穂独標だったのですが、この分ではたどり着くのは難しそうで す。
「山はいつも同じじゃないから」
信頼できるガイドと一緒なので、行けるところまで進んで状況を判断します。これも貴重な経験となるはずです。

アイゼンの装着具合チェック。入念にレクチャーしてもらえる
グローブをしたまま装着できるようになろう。「家でも練習して、そのまま会社に行こうかな。」と若いゲスト。いや、それは……ちょっと、笑。

ピッケルの持ち方、使い方をじっくり説明

ガイドたちは煩わしく危険なピッケルバンドリーは付けません。「子供の定期入れにはヒモを付けるけど、大人は付けないでしょ?」正しい使い方を覚えれば落とすことはまずないからです。

2~3人ずつロープで結び合って。ミスのないようにしっかり確認

「歩くときはロープを弛ませないようにね。ロープの弛みは後ろの人の責任だよ」

西穂方面へスタートした直後。雪は柔らかいが急斜面に手こずっています

氷の上を楽に確実に登るためには、足先を片足だけ横に開いたり両足とも横に向けたりして登っていきます。ここでもフラットフッティングが基本になります。つま先だけではなく、なるべく踵まで置けるように足場を探します。
一段上がると風はさらに強くなってきました。

岩の隙間をものすごい速さで雪が流れていき、岩肌も凍りついていきます

白い世界を行く川崎さんパーティー

稜線は本物の厳冬期の様相です

わずかなハイマツと岩肌が覗く他は、全くの白い世界。ほんの10mほど先に突然標識が現れ、西穂丸山に到達です。

西穂丸山で登頂写真。ゴーグルの奥はきっと満面の笑みでしょう

完全防備のため表情は一切見えないけれど、参加者たちからは達成感が滲み出ています。
手早く記念撮影をしようとカメラを向けるとシャッターや他の各ボタン類が凍りついてます。後続のパーティーも続いて到着してきました。この辺りが潮時かな。十分に冬山体験を味わったでしょう。リスクが増す前に踵を返して下山の途につくことになりました。
仕方がないとはいえ残念なので、晴れてたら拝めたであろう独標よりの眺めがコチラ。

数年前の3月末、西穂独標よりピラミッドピーク、西穂山頂方面

顔を風下へ向け、一歩一歩着実に斜面を下っていきます。

「耳の感覚も触って確認してみて」「手をグーパーグーパーして」と絶えずケンケンが声をかけます

ケンケンの声は、風にも負けずフードを深く被った耳にもなぜかよく聞こえるから不思議。
常に西から風が当たっているので、登りは左側、下りは右側の凍傷が特に心配です。
振り返ると一面の白い世界。道しるべの赤布は、かなり密な間隔で立ててくれてあるのになかなか見えないほどです。足元もすでに風雪に晒されて先ほどまでのアイゼンの爪痕ももはや消えかかっています。ルートを見失わないように慎重に下っていきます。

ハードな状況、なかなか練習通りには歩けないけれど、ガイドがしっかりサポートしているので安心

西穂山荘でしばしの休憩、暖かい飲み物をいただき、濡れた装備を乾かす間に心と体も温めます。

稜線の過酷な風雪で磨きがかかったガイドの北村さんの勇姿!

人心地ついたら再び雪の中へ。心なしか風も穏やかになったような……

昨日登ってきたのと同じルートで樹林帯の中を下っていきます。登りでは怖さを感じなかったのに下りでは斜度感も増します。
「こんな急なところ登ったっけ?」
そんな事を言いながらも、けっこうみなさん楽しげに下りていってました。あいにくの……どころではない大荒れの天候で、本当に真冬並みの冬山登山となった今回の登山学校。
初心者じゃなくても辛く厳しいコンディションではありましたが、むしろ冬山の怖さを肌で感じれる貴重な経験ができたかもしれません。
参加者同士の絆も深まったようです。
ケンケンを始めとした熟練のガイドたちのアドバイスは、きっと今後の登山に役立つことでしょう。
ハードさだけでなく、夜の部?も含めて皆さん存分に冬山を楽しめたようでした。

西穂山荘前で集合写真。厳しいコンディションだったが、そのぶん充実していたのが表情に出ています

2019/04/25