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イラストレーター・長場雄インタビュー「フェスと音楽、そしてイラストレーションについて」

2019/05/24

音楽を聴くことで見える景色がある。絵を観ることで聞こえる音もある。新しい服を着れば今まで見えていた景色や聞こえていた音がよりポジティヴに変化する。そんなカルチャーの素晴らしさを全身で感じられる場所と言えばフェス。そのフェスに欠かせないアイテムがアウトドア・グッズ。Columbia Sportswearは今年もイラストレーター・長場雄とともに、2種類のTシャツを制作しました。一つはFUJI ROCK FESTIVALとのコラボ、もう一つはすべてのフェスに対応したタイプ。今回は長場本人に両デザインに込めた思いや、極力情報を削いだ少ない線で描かれる作品の持つ魅力について、話してもらった。

―Instagramにほぼ毎日、何かを描いて投稿されていますが、アイデアを出すのは大変じゃないですか?
何かを生み出すのはなかなか難しいです。だからこそ描くしかない。シンプルに言えばそれだけ。日々描き続けることで、自分のなかで“いい表現”がストックされるんです。「あの時の感じよかったな」とか「これは別の何かに活かせるんじゃないか」とか。そうして得たものを、適材適所で採り入れてまた描いていくイメージです。だから、いただいた仕事以外でも1日に1点は描こうと思っています。

―今回はFUJI ROCK FESTIVAL ‘19とColumbiaのコラボTシャツ、Columbiaの“フェス”をイメージしたTシャツ、2種類のデザインを手掛けられました。そこで、長場さんのリスナーとしての音楽遍歴について、いつ頃から自覚的に音楽を掘るようになって、どんな音楽を聴いてきたのか、話を聞かせてもらえますか?
中学の頃なんで1990年代の初めです。もともと映画が好きで、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』や『トップガン』のサントラを買ったのが、音楽を意識して聴き始めた最初だったような気がします。あとはラジオもよく聴いてましたし、家のテレビで全米のヒットチャートを紹介する番組でよく流れていて、そういったことがきっかけで、海外の音楽をどんどん聴くようになったんです。

―当時を振り返って、特に印象に残っているアーティストは?
Nirvanaは大きかったです。すごくカッコいいなって。ちょうど『Nevermind』が出た頃(1991年)。それ以前のハード・ロックやヘヴィー・メタルが「もうダサいよ」って流れになってきたど真ん中にいました。

―FUJI ROCK FESTIVALが始まったのは1997年。当初は山梨で開催され、現在の新潟に移ったのは1999年から。初期の頃もよくご存じなんですか?
周りの友達はけっこう行ってたんですけど、僕はお金がなくて。だからその頃のことはニュースでしか知らないんです。天気とか毎回大変そうだなって、思ってました。

―現地での思い出となると、どうでしょう。
James BlakeとThe Internetが観たくて行った2016年。スケジュール的にその日1日しか空いてなかったんですけど、行ってよかったです。

―James BlakeもThe Internetも出てきたのは2010年代。ずっと新しい音楽を追い続けてるんですね。
最近よく聴いてるのはSolange。今はもはや「ジャンルって何?」くらいのところにきてるし、スタイルにとらわれてないアーティストが多いから、すごくおもしろい。おもしろそうなところにフラフラと行っちゃうんです。

―今回2種類デザインされたTシャツについて、まずはFUJI ROCK FESTIVALに向けたものには、バンドの演奏シーンを描かれました。このアイデアはどこからきたのですか?
いただいたお題が“ロックバンド”だったんです。そこで、僕が想像する架空のロックバンドとなると何を描けばいいのか、けっこう考えました。Nirvanaとかあれとかこれとか、具体的なバンドが頭のなかに浮かんじゃって。僕が絵的にもっとも好きなのはRamones。となると、もうどう描いてもそのままじゃないですか。どうしようか悩んでいるところで思い出したのが、Elastica。できた作品は女性ヴォーカルじゃないし、編成は違いますけど。あとは、Lenny Kravitzが自分のバンド・メンバーに女の子を入れてたこととか、その辺りがイメージ・ソースでした。

―The Strokesに代表される、00年代インディー/ロックンロールの雰囲気も。
The Strokesも好きです。で、ちゃっかりスニーカーは(Nirvanaの)Kurt Cobain仕様に。

―もう一つの作品、これはフェスのお客さんの様子ですよね?
はい。僕らが若い頃はすごく自由で、モッシュとかダイヴが飛び交ってたじゃないですか。その光景が目に浮かんで、そこからああなってこうなる、みたいな感じでわりと早くできました。胸のところに、その飛び込んでる人を描いたので、全体の様子をバックプリントに入れたんです。

―長場さんのイメージは一人のキャラクター、もしくは二人の関係性、三人以上のものでも個の集まりとしてのイメージが強くて、今回のような何人かもわからない多くの人たちの動きとなると、珍しくてニンマリしました。
確かに、言われてみればそうですね。去年この企画をやらせてもらった時は、観客の女の子と男の子の二人だったから、それと同じようにならないように、とは思いました。だから僕の作品のなかでは珍しいものになったのかと。フジのほうもこれも、今初めて現物を見たんですけど、どっちもボディの色味がいいし、バッチリですね。

―長場さんの作品と言えば、少ない線と優しいタッチが特徴です。その緩さや素朴な味わいのなかに、伝わる強さやピリッとした刺激のある、独特の温度感がクセになります。
あまり熱いものが好きじゃないんです。テレビより聴くだけのラジオが好きだし、テレビで唯一観ている番組は『ブラタモリ』ですし。基本的にオフな感じ。だからおのずとそういう表現になってくるんだと思います。“これ、おもしろいよねえ”くらいの温度で、淡々と伝えていければと。思い返せば昔からそうかも。冷めてるつもりはないんですけど、熱くなりすぎてるものには近づかないようにしてたような。

―しかし好きだとおっしゃったNirvanaは、ハード・ロックの隆盛が終わる決定打となり時代をひっくり返すほどの、ものすごい熱量があった。彼らのルーツである1970年代のパンクは、ポップ・アートやダダとの結び付きが強い。そういった音楽や芸術のムーヴメントに、興味はなかったんですか?
興味はありますよ。日本だと村上隆さんとか。でもめちゃくちゃ好きかって言われると、そうでもないんです。自分にできないことをやっていてすごいなって、そんな感じです。確かに、僕が好きなロックって熱いですよね。パンクなんてまさに初期衝動の一番熱いところですし。

―パンクのように、形骸化したものや過剰にエンタメ化したものに対するカウンター意識となるとどうでしょう。
心のなかには沸々とあります。でも、それをそのまま出せないんですよね。やっぱり冷めてるのかなあ。いや、ひねくれてるんだと思います。熱くなったあとが悲しくて耐えられないタイプなんです。友達が家に遊びに来て、すごく楽しかったのに帰っちゃったときとか。だから、そもそもあまり熱くならないようにしてるところはあります。

―その瞬間の熱狂は二度と戻りませんし、儚いものだと思います。
何か一つ、イベントを成功させたとして、素直に喜べないんです。じゃあ次は何をクリアすればいいのかって思いがよぎって、ナーバスになっちゃう。

―職業柄、おっしゃるような流れでナーバスになることは避けられないですよね?何かを成さなければもう依頼はこないから生活ができない。そこで仕事が途絶えないような状態を想像して、工夫することはございますか。
そうですね、やったことに反響があるからこそまた次があるわけで、それを喜べないとは言いましたけど、現実として繰り返していかなきゃいけない。でも、クリアしていくからこそ新しい世界が見続けることができる。その気持ち良さもめちゃくちゃ大きいんです。同じことをずっとするのは苦手。常に新しいことをやるのが好きなんで。知らなかったことを知ることは、生き甲斐そのものでもある。だから、淡々としていながらも少しずつ成長していけたらいいなって、思います。

■プロフィール
長場 雄 Yu Nagaba
イラストレーター、アーティスト。 1976年東京生まれ。東京造形大学デザイン学科卒業。雑誌、書籍、広告、様々なブランドとのコラボレーションなど領域を問わず幅広く活動。2014年より、自身のインスタグラムにて1日1点作品をアップし続けている。過去のワークスに、UNIQLO、ASICS、G-SHOCK、BEAMSとのコラボレーション、その他、マガジンハウス、RIMOWA、Technics、Spotify、Universal Music、Monocleなど国内外問わず様々なクライアントにイラストレーションを提供している。


写真=トヤマタクロウ
取材・文=TAISHI IWAMI
編集=大澤佑介、宮城フランシス伸(RCKT/Rocket Company*)

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2019/05/24