地方暮らしに憧れる人々に贈る、東京→北海道移住エッセイ OPEN THE DOOR No.6

2021/02/19

「山と食欲と私」作者・信濃川日出雄


第6回 憧れの薪ストーブ生活(3)

移住したからこそ実現した、憧れの薪ストーブ生活。

薪ストーブほど体を芯から温めてくれる暖房を他に知らない。
マッチ1本の小さな火を、炉の中で組み上げた薪の下に入れる。
頼りない棒の先にしがみつくヨチヨチ歩きのような幼い火が、細枝に燃えうつり一人で歩き始める姿を見届けたら、そっと分厚い扉を閉める。
ストーブはどんどんと空気を吸い込み、ごうごうと音を立てる。
火はたちまち大きく育ち、ストーブの重厚な本体を暖め、その熱が家と、人と、心を暖めてくれる。

さて今回も薪の入手ルートのお話。

前回では3つの主なルートのうち、
「土地の雑木を伐採する」
「大工さんから端材をいただく」
の2つについて書いた。

今回のお話は、その3つめ、
「誰か・どこかから無料でもらってくる」
ケースについて、いくつかドキドキワクワクの体験談を書いてみたい。


ーーー

知らないおじさんの車に乗る

いきなりである。

ある春の日。
庭で薪割りをしていたら、道を通りかかった軽ワゴン車の運転席から声をかけられた。

「木、いる?」

状況が飲み込めず、一瞬「?」というホゲ顔をする私。
運転席から顔をのぞかせた橋爪功似のおじさんはこう続ける。

「おたく、薪やってるんでしょ?最近、うちの庭の木を切ったばかりなんだけど、処分に困っていて、地面に転がしたままなんだよ。もらってくれない?」

なるほど、そういうことか。

「すぐ近くだから、どんなもんか一度見に来てよ。乗って」

名俳優がそう促す。
さぁ、どうしよう。いきなり見ず知らずの車に乗って大丈夫かと瞬間的に警戒心が働くわけだが、自分など何の魅力もないただのおじさんである。向こうも名俳優に似ているだけの、どこにでもいるおじさんだ。無もなきおじさんが無もなきおじさんをさらって何の得があるのか。
そんなことを瞬間的に頭の中でグルグル考えるうちに、何よりも好奇心と「木がもらえる!」という欲望が勝ったので言われるまま車に乗り込む。実際、行ってみれば我が家から車でわずか1分。
超ご近所さんのお宅の庭先に、手ごろなサイズの木が転がっていた。

薪ストーブユーザーは、薪ストーブユーザーであることを隠せない。
家の周りに薪を積み、庭には丸太を転がし、屋根には煙突がついている。
春〜秋はせっせと庭仕事をし、薪割りをする。

その姿を、見ている人は見ているのである!

こうした「ラッキー薪」は時折忘れた頃にやってくる。

通りかかったどこかの工務店のトラックがうちの前で停車し「この端材いる?焚きつけに使えるしょ?」と、勝手に端材を下ろして行ってくれたり(通称「押しつけ薪」)、某飲料メーカーのセールスのおばさんが「最近、庭の木を切ったんだけど、もらってくださる?」と突然声をかけてくれたこともあった(通称「ヤク◯ト薪」)。

さらに。
「薪、譲ります」という手作りのチラシをポスティングされることもある(通称「直取引薪」)。専門の業者ではなくても、木の処分に困る人は常にいて、私たちのような薪ホイホイ人間を狙っている。

手放したい人、それを必要とする私。
ぴったりハマると、妙に嬉しい。
この地域に暮らす人々の日々の営みの輪の中に入れてもらえた、そんな優しい気持ちを抱く。

移住してきた私たちである。
ここにいることを肯定されているようで、ホッとするのである。


ーーー

自分で切るならあげる

次は、知り合いを通じて「ある土地にいらない木が生えているから、自分で切るならあげる」と言われた話。

それまで何本かチェーンソーで木を切り倒したことはあるものの、せいぜい樹高5〜6m、最大でも10mに届くかどうか、その程度の経験しかない自分である。
それ以上となると、自分には扱えない。

まずは見に行ってみようと地図を頼りに指定された場所まで行ってみた。
木を見て驚いた。いわゆる「トトロの木」的な木である。
樹高30m、幹の太さは最大で直径60センチにはなろうかという、たいへん立派な巨木が、住宅街の空き地の真ん中にポツンと立っていたのだ。

「あかーん」
見に行ってみてよかった。
もしも切り倒して薪にしたなら、数年は困らないかもしれない。立派なミズナラだ。おそらく専門の業者でもない限り、素人ではおいそれと手が出せないレベルなのだろう。だから、誰も手をつけず放置しているのだ。
そしてきっとシンボルツリーとして、地域で昔から愛されてきた木に違いない、と感じた。しかし視点を変えると、確かに、台風などもしものことを考えると恐ろしさを感じるレベルにまで大きくなりすぎている。できるだけ早く誰かに切られるのを待っている、といった印象も受けた。

実際作業をするなら、周囲には住宅もあるので、根元から一気に倒すのではなく、少しずつ枝を落としながら切ることになるのだろうが、高所作業車や重機が必要となるだろう。自分にはそんな技術はなく、そのコストもかけられない。

潔さは大事である。

キッパリと諦めて、すごすごと帰った。

友人の職場からいただくというケースもあった。
その職場では資材置き場のために雑木林の土地を購入し、土地をならすために開墾している最中だと言う。その過程で大量の丸太が出ている、このままでは処分するだけなので必要なだけあげる、と連絡をもらった。

願ってもない機会である。
友人の職場にお邪魔するので手土産を多めに用意して、車にビニールシートを敷き詰め、お昼休み時間を狙って出発。
到着してみたら、まさに山野を切り開いてる現場。
あたり一面が丸太の山である。

全部ください!
それが素直な気持ちだったが、自分の車の積載量にも限度があるし時間も限られている。
お邪魔にならないようにと遠慮もしながら、できるだけ良さげな丸太を選び車に積み込んでいく。

友人が気を利かせてチェーンソーでほどよいサイズに切ってくれた。

友人の勇姿を載せておく。

繰り返すが、こちらはタダでもらうだけの立場である。申し訳ないことこの上ない。
ありがたく大量の丸太をいただいて帰った。

家でストーブをつける時、こうしたエピソードを思い出しながら感謝の念と共に薪をくべる。


ーーー

抽選でもらってくる

「伐採木の無料配布」のお知らせも、見逃せない大事な情報だ。

そのような「その情報を必要とする人が絶対数としては少ないが、確実に存在するローカル限定情報」というものは、「地域情報誌」によって手元に届くことが多い。

うっかりすれば見落としそうな、中面の募集欄の隅に小さな文字で書いてあるのである。
募集主は地域の土木センターや公園、大学など様々だ。
誰がこんな記事を読んでるんだろうねぇ、と思う細かい記事である。私が読んでいるのだ。

それを見逃さず、電話やメールで申し込むのだが、無料でもらえるものはやっぱり誰にでも魅力的なのだろう、必ず抽選制となる。
同じように宝探しを頑張っている薪ストーブユーザーがこの地にはたくさんいるんだと妄想が膨らんできて、一人で勝手に胸を熱くする次第だ。

ある日、とある公園の管理事務所による募集に応募し、抽選に当たった。
公園内で大規模な伐採を行った際に出た丸太の無料配布である。

いつものように車にビニールシートや軍手等の「丸太もらいセット」を積み込み、現地へと向かう。
当日は小雨。こうした無料配布はよほどの土砂降りでもない限り中止にはならない。

ここで、野外作業時の服装について。
雨が降るからといって登山で使っているレインウェアを着るのは、例えば丸太でひっかき傷ができたりしたら惜しいので、基本的に使うことはない。

かといってすぐ破れてしまうような安い雨ガッパも実用的ではない。
ゆえに現在は、着古した”先代の”レインウェアが、「雨天時の野良仕事用」として活躍している。

ただし、野良仕事というものは登山と違って雨に打たれる時間は少なく、防水透湿というよりは、どちらかというと多少ひっかけても破れないというような耐久性が求められるシーンが多い。
軽量さとトレードオフに耐久性はそこそこそれなりである登山用レインウェアは、トゲだらけの丸太を抱き抱えたり刃物を扱うような野良仕事には本来は向いてないと思われる。
だが、元々は自分が好きで選び、山々を一緒に歩いた相棒である。
首筋や袖口には、俺の汗くささ…、いや、あの山の匂いが残っているのだ。
羽織れば自然と気合が入る。

駐車場に車が行列を作っている。
駐車場の端には、おびただしい量の丸太の山。山というよりは、もはや山脈といった趣だ(写真参照)。
1申込につき、車1台に積めるだけの積み放題、ただし、チェーンソーは使用不可&大型トラックや業者は除く、という条件である。

軽トラや、ハイエースのような大型車が心底羨ましく思えた。
当時の我が家の車は、それほど多くは載せられないハッチバックタイプの車である。
(現在はこうした反省を生かし、ゴツいSUVに乗り換えた)

まぁでも無料でいただけるのだから、ありがたい。
何よりこうしてもらいに行くことが、ちょっとしたイベントみたいで面白い。
ここを楽しめないと、薪ストーブライフはただの消費活動となり、いまいち味気ないものになるだろう。

抽選番号順に案内された場所まで車を寄せ、みんなジャンジャンと積み込んでゆく。
一度に車を寄せられるのは10台まで。順番に入れ替わりながら、みんな我先にと目的の木を探してゲットしてゆく。

様々な樹木があった。
北海道ではどメジャーな白樺をはじめとして、他にミズナラやカシワ、タモ、カエデやクルミなどの落葉広葉樹、エゾマツのような自然木の他にコニファーと総称される園芸系の針葉樹がたくさん。さらに公園ならではだが、イチョウにプラタナスやポプラ。もはや種類のよくわからない朽木や、岩のような根の塊などもある。

薪にするのに良い木は、ナラ類などの広葉樹の密度の高い幹だ。長く燃え、燃料として最も効率が良い。それが第一目的。針葉樹は次のお目当てとなるが、特に松系は「ヤニ」のおかげで火つきがよく、焚きつけ段階に温度をあげるのに向いている。ただし、密度が低いので燃え尽きるのが早く”火持ち”が悪い。ゆえに、いっそのこと薪割りの際には細く割って、焚きつけ専用としてしまえば、その個性を最大活用できる、というわけである。
ちなみに、白樺はその美しさからも人気は高いが、密度がスカスカで薪としての能力はイマイチ。ただし皮だけを見れば非常に燃えやすく、針葉樹同様に焚きつけ材として最高である、ということをここに書き添えておこう。

さらに大事な条件が2つある。1つは「自分が扱えるサイズ感」であること。
丸太山脈の中にはとんでもない巨木の幹も混じっており、圧倒的な物量感を目にするとつい持って帰りたくなるが、そういうものは一人では動かせないほど重く、欲にかられて頑張って持ち帰ったところで、後々扱いに困ることが多い。

2つめは「うねっているものや、”股”などの割りにくい部分は避ける」ということ。
割りにくいものを割る、そのために頑張る手間を考えたら、やはり難しいものは避けたい。パカンと一撃で、素直に割りやすいものを選びたい。

ほどよい種類の、ほどよいサイズの木。これを狙うのである。

山脈を歩き回り、自分にとってのお宝を探す。
繰り返しになるが、みんな競うようにお宝を選んで持っていく。
すでに順番が先の人の手によって、いいやつはなくなっているので、自分の目的に合わない木を動かしたり掘ったり、さらには妥協をしながらである。
家族やチームで訪れている人たちは、二人で運んだり、別々に動けるからいい。
こういう時、一人だとものすごく必死である。

さて、汗だくになりつつもそれなりに良さげなやつを見定めて何本かゲットし、余裕ができてくると、他の人がどんな木を選んでいるのか気になってくる。
チラチラと横目で観察すると、見るからに「薪」を目的にしている人は6割ぐらいで、その他の人は、珍しい木や、綺麗な木を選んでいる人も多いように思った。

あとで聞いた話では、例えば仕事や趣味で木工だったり、内装などをしている人が材料を探しにきているということがあるようだ。加工して商品や作品を作ったり、店舗の内装などにありのままの風合いを活用するのかなと想像する。

確かに、薪にするには細いが、太さが綺麗に揃った白樺の枝をたくさん集めている人が実際にいた。何を作るのか、生まれ変わった姿にも思いを馳せる。

自分はもっぱら薪用に集めているわけだが、時には燃やしてしまうにはもったいないと感じる良い木を手に入れることもある。そういうものはとっておき、庭作りやDIYの材料にする。
我が家では子供部屋の仕切り壁を自作して設置しているのだが、そこでも白樺の丸太を使ったし、樹皮を剥いてテラス用の丸太椅子を作ったり、ちょっとした花壇の仕切りにも使ったり。様々な木と触れ合う暮らしは楽しいものだ。

[商品レビュー]今回の商品レビューは「アウトドアエクストリームジャケット」。説明によれば、本来は生地の内側に使用する防水メンブレンというフィルムを外側に貼っているという挑戦的且つ独自のテクノロジーで、他の防水テクノロジーと違って吸水して重くなることはなく、コロンビア史上最高の防水透湿機能を備え、永続的にはっ水を維持するということのようである。

近頃筋トレばかりしているので、不自然に胸板を強調したがっている写真で申し訳ない。蛇足ついでに若干お腹を凹ませていることも参考に記しておこう。

パッとみた印象は「ハイテク感ある」、というのが正直なところ。これをよしとするかは好みの問題となるのだろうが、個人的には未来感を前面に押し出したこの手の商品は嫌いじゃないタイプだ。まるでバットマンが着用する外骨格のバトルスーツのような…なんて中2(小4?)的な男の子ごころが胸の深いところに宿っていることを確認する。さて、手に持ってみるとその軽さにびっくり。これはいい。実際に着てみると軽快で、縫製がよく動きを邪魔しない。北海道はまだまだ真冬ゆえに、このジャケットを実戦デビューさせるのは先になりそう、ということで、とりあえず試しに霧吹きでこれでもかと水をかけてみた。

当たり前だが、めっちゃ弾く。
中はもちろんサラサラだ。
おろしたてのレインウェアなら、どこのメーカーのだってみんな最初はそうだ、とも言えるかもしれない。
真価が問われるのは、何年か使ったあとだ。
雨に打たれ、時には泥もつき、内側からは汗がムンムンとしみる。実戦の現場では綺麗事ばかりでは済まないから、ラーメンの汁をうっかりこぼしちゃうことだってあるだろう。
最初は無敵だったのに徐々に撥水力が弱まって、じっとりと重くなる。どんな立派なふれ込みのレインウェアだって、結局そうだったじゃないか。あの気持ちを俺は忘れていない。
この「アウトドアエクストリームジャケット」はどうなんだろう。期待に応えてくれるのか。説明通りどんなに時が経ってもパリッと撥水力を保つのか、これから見届けていきたい。

蒸れが気になるところだが、脇の下にはベンチレーターを備えており、もちろん防水透湿機能もバッチリ。蒸し風呂は回避できそうだ。
これ以上はレビューできないのが申し訳ないが、個人的には新しいジャケットを手にして春を待つ楽しみができたのでルンルン気分である。
ひとまず壁にかけて眺めながら、雪が雨に変わる季節を待ってみよう。

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次回は薪ストーブで作る料理について書いてみたい。
ストーブなので天板の上に鍋をのせ加熱するといった調理法はもちろん、実は炉の中をオーブンのようにも使えるのだ。

お楽しみに。

↑白樺の皮を剥がしたところ。最強の焚きつけ材。

文・写真 信濃川日出雄

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プロフィール

漫画家。代表作は『山と食欲と私』。
2001年よりプロ漫画家デビュー。2015年から新潮社「くらげバンチ」にて連載をスタートした『山と食欲と私』が累計150万部を超え、現在も好評連載中。PR企画やグッズデザインなどにも積極的に参画、コロンビアとも多くコラボレーションしている。

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レビュー商品
アウトドアエクストリームジャケット
¥24,200(税込)

2021/02/19

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