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MEETING

それぞれのフィールドと雨を語り合う

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Episode
04

雨をどう乗り切るか、それも野外フェスの醍醐味。

「フェスおじさん」とフェスをつくる3人が語るレイニーライフ

年間20ものフェスに参加する編集者・ライターで「フェスおじさん」とも呼ばれる菊地崇さんが、全国のさまざまなフェスをつくるお馴染みの3人にお話を伺いました。大型テント「フレアーテント」を製作する井田雅士さん、流木を用いてアート作りや空間演出を行うKSK(ケースケ)さん、フルハンドメイドの「ハンモック2000」を手掛けるMasaさん。それぞれが語るフェスの醍醐味、雨のエピソード、 OUTDRY EXTREME(アウトドライエクストリーム)ウェアの魅力とは?

対談の様子

自分の表現をフェスという空間で作り上げていく。

菊地崇さん(以下、菊地): まず、ハンモック、ステージでも使われる大型のテント、流木を使ったオブジェ、野外フェスでよく見かけるそれらをどんなきっかけがあって作りはじめるようになったのか、そこからお話を聞かせてください。

Masaさん(以下、Masa): 屋号がハンモック2000。2000と付けたのは、立ち上げの年が一応2000年だったからなんです。20歳そこそこの時代に海外を旅していました。相方のFlyman(フライマン)がアムステルダムでハンモックを売っているお店を見つけたんです。そこでハンモックを買ってきて、都内の公園で何個か張って遊んでいたら、小さな子どもからおじいさんおばあさんまで、「珍しいね」とか「乗らせてよ」とか言って寄ってきたんです。泣いちゃったり笑顔になったり、ハンモックで揺られていると気持ちが緩んでしまう人が多いんですね。そんな人間性が出るものってすごくいいなって思って。その後インドでハンモックを作っている機織の工場に出会って、天然素材のオリジナルを作りはじめたんです。

KSK(ケースケ)さん(以下、KSK): 僕は脳挫傷で長く入院していたことがあったのですが、入院中に友だちが持ってきてくれたのが高橋歩さんと小林崇さんの本だったんです。それで旅とツリーハウスに興味を持って。もともと庭師だったこともあって、ウッドデッキなんかも作ったりしていたんですけど、木の上に家があるっていうことがとにかく気になったんです。それで小林さんのところに行って、一緒にやらせてくださいってお願いして。はじめて手伝ったツリーハウスの手すりが流木だったんですね。その時に流木にはじめて出会って、一本一本表情が違う流木にどんどん魅かれていったんです。設営をお手伝いしたグリーンルームフェスのツリーハウスも流木を使っていました。しばらくして高橋歩さんが手がける旅祭というイベントのオーガナイザーの方とお会いする機会があって、「流木を使っていろいろ作っているので、何かやらせてください」ってお願いしたんです。それが2012年の旅祭のことです。

井田雅士さん(以下、井田): フレアーテントとしては2004年くらいですかね。宇宙警備隊という名称のフェスのデコレーションチームに参加しとったんです。フェス以外の仕事では、町工場でトラックの幌などを作っていました。工業用ミシンを使って自分で仕事をしていくって決めて。デコレーションチームの中で、自然な形の使いやすいテントが欲しいねっていう話になって、それで自分で作ってみたんです。最初はステージの奥にある楽器置き場として使ってもらって。

対談の様子

春から秋まで続くフェスの旅。

菊地: 僕は年間に20くらいフェスに参加しているんだけど、どのくらいフェスに行っているのですか?

Masa: 最初の頃は、知り合いがやっている小さなフェスやパーティーにハンモックを持っていって売っていたんですよね。売りながら自分たちも遊んでいた。そのうちに林間にいっぱい張って、お客さんに楽しんでもらうようになったんです。そこからスタートです。今では春からいろいろ出ています。ゴールデンウィークから9月までは月に2~3回くらい。毎週の月もありますね。ここ数年は秋フェスのシーズンも伸びていて10月も増えていますよ。

KSK: 僕はそこまで行っていないけど、一番多いのは(井田)雅士くんでしょう。

井田: 去年は25以上でした。少し前までは日程が重なってしまった時は断っていたんですけど、自分以外にも建てられるチームができたんで、その仲間に頼んで。そもそも外で遊んだり、外でみんなでお酒を飲んだりするのが好きなんです。外におる時に、雨が降ったとか陽射しが強いっていう状況になったら、ちょっと休めるところがあったらいいじゃないですか。自分が作ったものでみんなに場所として提供できるっていうことがすごく良くて、それが続けている一番の理由ですね。

菊地: 流木でデコレーションする際には、テーマを決めるものなのですか。

KSK: 庭の仕事って、ある部分では余分なものを取り除いていく削る美学の要素もあるんです。最初はテーマを設定せずに作っていたんですけど、作る仲間が増えてきたこともあってテーマを作るようにしたんです。目標を設定する。流木アートって、あればあるだけ足してしまう。終わりが本当にないんですよ。削っていって、そこでかっこいいものを作るっていうことを目指しています。少ない量で何を見せられるか。木って太陽と水が育てるものじゃないですか。一本一本の流木にそれぞれの歴史がある。

井田: 去年のNACでのトーテムポールとか、KSKくんのデコレーションは一本一本の木の特徴をうまく形にしていると思う。

菊地: フェスではキャンプが多い?

Masa: 宿があるよって言われても、キャンプを選んじゃったりしますね。キャンプの方が自由度が高いし。寝るために会場から離れるって、なんか冷めちゃうじゃないですか。お客さんの近くにいたいっていう思いもあるんです。

井田: 家で寝とるよりも、キャンプで寝とる方が多いかも(笑)。

KSK: フェスはもちろん家族でもキャンプに行くことが多くなりましたね。子どもの通う保育園のお父さんお母さんたちと。

対談の様子

雨のフェスとアウトドアウェア。

菊地: 野外フェスでは雨が降ってくることも多いです。レインジャケットは雨の予報がなくともいつもバックパックに入れています。みなさんはフェスでのウェアにこだわりってありますか?

Masa: フェスの本番では、白いシャツを着るルールを決めているんですね。自分たちはハンモックを通して、お客さんと直に接します。だからハンモックを管理している人間だって認識してもらうために、あえてアウトドア的ではない白いシャツにしているんです。雨や冷えてきた時には、このOUTDRY EXTREME(アウトドライエクストリーム)のジャケットを羽織っています。

KSK: フェスではこのジャケットを持つか着るかして行動しています。作業があるからストレッチ性のあるものが好きですね。テントなどの自分たちのベースの場所ってデコレーションを作った場所から遠いことがほとんどなんです。何かあったらすぐに現場に行かなきゃならないから、いつも必要最低限の道具をポケットに入れています。

菊地: 僕も3年くらい前からこのOUTDRY EXTREMEのジャケットを着ているんだけど、撥水させて雨の浸入を防ぐことをコンセプトにしているから、雨が降り続いたとしても軽いままで内側はドライ。フェスにはうってつけのアイテムだと思う。

井田: OUTDRY EXTREMEの軽量のタイプは、「これで本当に防水なんですか?」って驚いてしまうほどですね。動いていてスムーズだし。こんな素材を使ってテントを作ってみたいです。濡れても重さが変わらないって、撤収の時は最高じゃないですか(笑)。

いろんなことが起こるのが、野外フェス。

菊地: 去年のフジロックのような土砂降りは勘弁して欲しいけど、フェスでの雨ってそれほど嫌いじゃなかったりする。

井田: 去年のフジロックでは、自分が作った大型のテントに多くの人が避難していました。あの光景を見て、自分のテントがみなさんのことを守っていることが実感できて、うれしくなりましたね。雨があるからこそ日本は自然が多様だし、その野外で行われるからこそ、いろんなことを教えてくれるし。

Masa: 悪天候になることも、ある部分では楽しみのひとつでもあるんですよね。ドキドキ感があって。どう自分たちの力で乗り切るかが試されている。

KSK: 同じ思いです。デコレーションにとっては雨や風は大敵ですけど、どう自然と共生していくのかを問われている時間でもありますよね。フェスで時間を過ごすっていうことは、そこを楽しめるかどうかだと思います。

Masa: 自分のテントサイトでタープを張るのが遅くなっちゃって、いろんなものを濡らしちゃったっていうことも多いけど(笑)。

菊地: 後になって記憶に残っているのは、フェスでは雨のシーンだったりするから。晴れている方が気持ちいいし好きだけど、いろんなことが起こるのが野外フェスであって、それも前向きに対応していかないとね。

対談の様子

フェスという場所がもたらしてくれるもの。

菊地: 3人はフェスに関わって10年以上。フェスが今後どうなって行けばいいと思っていますか?

Masa: いろんなフェスがあるけど、フェスのスタイルってほぼ完成していると思うんです。正直に言うと、便利すぎるというか快適すぎるのもどうかと思います。自然の中でフェスを楽しんでいるはずなのに、都市を持ち込んでしまっていると感じてしまうこともあります。

KSK: どこかに非日常性を感じさせないとね。

Masa: やっぱりフェスって非日常だから。何もないところにみんなが集合して、作り上がって、でき上がる。そこにみんなが集って、遊んで、日常に帰っていく。僕たちはお客さんが帰った後に撤収して次の現場に行く。自然の中で時間をかけて作っているということもフェスの大事な部分だと思うんですね。雅士くんも人力でテントを建てたいというように、そこがフェスの大切なところでもあり、自分でもいいなって思えるポイント。

KSK: ステージのフレアーテントを人力で建てているなんて、お客さんは誰一人として思っていないかもしれないし。

Masa: 設営を見せるところからはじまるフェスやイベントがあってもいいと思う。フェスが村でお客さんが村民であるのなら、村を作るところから見せる。

菊地: それをワークショップのような形でできたらいいかも。ステージは難しいかもしれないけど、流木アートは可能じゃないかな。

KSK: 参加したいという人がいたらやってみたいですけどね。音楽を聞きに来ているのに、ずっと流木でデコレーションを作っていた(笑)。

井田: フェスって音楽だけじゃないですものね。大きなテントを建てているお父ちゃんを見て「かっこいい」と思う子どももいるかもしれない。

Masa: NACやフジロックにいると、そういういろんな楽しみ方をしている家族が増えたと思いますよ。小さな子どももずいぶん増えたし。それがこの10年20年の大きな変化なんでしょうね。

菊地: 音楽だけではなく、フェスにはいろんな扉がある。野外にいるだけでいろんな学びがある。3人はフェスの裏方としてフェスを支えている。多くの裏方の人たちが想像力をフェスの中に入れ込むことで、扉がどんどん増えていっていると思う。だからみんながフェスで空間を演出したり新しい何かを見せてくれることによって、フェスの楽しさをより増していると思います。

Profile

フェスおじさん・編集者・ライター 菊地 崇さん

菊地 崇 さん

編集者・ライター

『Switch』『balance』『Lj』『88』といった時代の先駆的なカルチャー・マガジンでエディティング&ライティングを担い、60年代のアメリカで起こったカウンター・カルチャーのビジョンを繋ごうとしている編集者・ライター。フェス、オーガニック、エコロジーなどカウンター・カルチャーで掲げられたテーマを、紙媒体をメインに、インターネット、テレビ、ラジオといったメディアを駆使して多角的に発信を続けている。現在は発行・編集人として『DEAL』をフリーペーパーとWEBで展開。著書にPHISHを追いかけた『「自由」って何だ?』。年間に内外20近くのフェスに参加。「フェスおじさん」とニックネームも定着している。

フレアーテント代表 井田 雅士さん

井田 雅士 さん

フレアーテント代表

フェスのデコレーションチームに参加している際にジオデシックドームに出会い、球体に近いことから風にも強いそのドームの魅力にひかれ、2004年よりオリジナルテント製作を開始。2012年からフェスではステージで使用されるようになり、現在ではフジロック、ニューアコースティックキャンプ、頂など、数多くのフェスでフレアーテントが使用されている。もっとも大きなものは直径16メートルの十角形のもの。MOUNTAIN MOUNTAINというハンドメイドのブランドを共同で立ち上げ、一般向けに受注生産でもテントやタープを制作。人力で立てやすく 全天候型に対応できるテント作りに取り組んでいる。

空間演出家 KSKさん

KSK さん

空間演出家

1998年から庭師として、寺院・神社の手入れ、造園などを手掛ける親方の下で修行。10年後にTree Gladness & Co.を立ち上げ独立。現在も庭師として活動している。2011年から、様々な音楽イベントの装飾・空間演出に参加。一本一本表情や個性が違う流木の魅力を知り、流木アート、流木装飾などをはじめる。2012年から、Hidari-kiki Creationのメンバーと共に音楽イベントなどで流木を担当。 個人でもKSKとしてフジロック、ニューアコースティックキャンプ、サマーソニック、アラバキといったフェス、ブランドの展示会、飲食店、水族館、ウェディングパーティー、ミュージックビデオなどで流木を使って空間を演出している。

ハンモック2000代表 Masaさん

Masa さん

ハンモック2000代表

天然素材である綿糸の染色、そして編み込みや織りに至る過程まで一貫してこだわって製作されるフルハンドメイドオリジナルハンモックブランドを、2000年にFlymanとふたりで設立。大量生産品(マシンメイド)では決して出せない風合いや洋服と同様に肌に身につけるものとしての乗り心地を追及している。ハンモックをコミュニケーションツールとして、その心地よさを伝えるべくフジロック、ニューアコースティックキャンプ、サマーソニックなど数多くのフェスでハンモックエリアを制作。世田谷にハンモック専門店SHOW ROOM 世田谷、吉祥寺にHammock cafe mahika manoを展開中。

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