「山を歩けば、心が満たされる」篠原果鈴と坪井保菜美が語る国際女性デーに届けたい、自然の力

3月8日は国際女性デー。

コロンビアでは毎年、女性が安心して自由にアウトドアを楽しめる社会を目指し、女性の多様な生き方を応援する日としてこの日を大切にしています。また、対象商品を購入いただくと、売上の一部が公益社団法人日本YWCAへ寄付されます。

コロンビアを長年率いた「タフマザー」ことガート・ボイルは、アウトドア業界が男性中心だった時代に、ブランドを牽引し、多くの女性を勇気づけてきました。彼女の想いを継ぐコロンビアにとって、国際女性デーは特別な意味を持つ日です。

「山を歩けば、心が満たされる」とは、ガート・ボイルの名言の1つ。ハイキングや登山を勧めるだけでなく、「まずは一歩踏み出してみること」の大切さを伝えるメッセージでもあります。

今年は、まったく異なるルーツから山と向き合ってきた2人の女性にインタビュー。登山ガイドとして日々山に立つ篠原果鈴さんと、コロンビアの国際女性デー記念コラボアイテムをデザインした、アーティストで元新体操日本代表の坪井保菜美さん。それぞれにお話をうかがいました。

山を歩けば、心は満たされていくーー篠原果鈴

コロンビアは「山を歩けば、心が満たされる」というメッセージを大切にしていますが、篠原さんが山で心を満たされるのはどんな瞬間ですか?

篠原:山登りを通してお客さんの心が動く瞬間に立ち会えたときは、「いい仕事ができたな」とすごく満たされた気持ちになります。私にとっては何度も足を運んだ山でも、お客さんにとっては初めての山。お客さんの新鮮な反応を通して、あらためて山の良さを再発見しています。

ガイドとして何度も登った山でも、季節や時間帯、天候によって表情はまったく違う。頬に感じる風や木々の揺れる音、少し湿った地面の匂いから春の訪れを感じたり、陽の長さの変化で季節の移り変わりに気づいたり。山にいると、五感のアンテナがちゃんと働くのを実感するんです。

私の場合、登頂中はそのアンテナが外側、つまり周囲に向いている気がするのですが、下山しているときは文字どおり「ひと山越えた」あとだからか、気持ちがほどよくクールダウンされるというか、意識がより内側に向いて思考が冴えわたるような感覚があります。

篠原果鈴。2000年、東京都生まれ。日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ。国際自然環境アウトドア専門学校山岳プロ学科を卒業後、株式会社フィールド&マウンテンに所属し、登山ガイドとして活動。初心者から経験者まで幅広い登山者をサポートしている

登りと下りで、心の向きも変わるんですね。

篠原:そうですね。それに比べて、日常のなかでは他者からの視線が気になったり、情報に囲まれていたりして、自分の気持ちと向き合うのは難しいと感じることがあります。そんなとき、部屋でじっとしていると、思考もマイナスに傾いてしまいがちです。

その点、山歩きは外で体を動かすので、リフレッシュにもなります。何か考えたいことがある人には、山は良い選択肢だと思います。自分を見つめ直したり、考えを整理したりするのに最適な時間がつくれると思います。

―そうした整う時間を支えてくれる存在として、今回のコラボウェアはいかがですか?

篠原:イラストの女の子たち1人ひとりに個性を感じて、これまでツアーに参加してくださった女性たちの姿を思い出しました。一口に山に行くといっても、ハードな登山もあれば、ゆるやかな山歩きもある。いろいろな個性の人がいて、それぞれ違う楽しみ方ができるのが、山という場所の良さですよね。

コロンビアのウェアは、何よりもまず機能性の高さに信頼を置いていますが、今回のウェアは色合いもポップですてき。国際女性デーがテーマのアイテムだと思うと、女性がマイノリティであるアウトドア業界で働く私も、なんだかちょっと勇気づけられます。


三色展開の「ウィメンズティーティージービーショートスリーブTシャツ」6,050円(税込)



ティーティージービーブーニー」5,940円(税込)



山は、話す機会が少なかった父と対話できる特別な場所だった

登山ガイドとして活躍されている篠原さん。深く山と関わるようになったきっかけは?

篠原:もともと山登りは、家族とともに過ごす時間でした。小学生のころ、祖父に連れられて初めて登ったのが富士山でした。祖父が登山を引退したあとはずっと、父が富士山や谷川岳、北アルプスといった山々に連れて行ってくれていました。私にとって山は、普段話す機会の多くなかった父と対話する時間を与えてくれる、特別な場所だったんです。

すてきな原体験ですね。

篠原:はい。幼いころの登山体験が「良い思い出」として残っているのは、父や祖父が引率者としてしっかりサポートしてくれたおかげだと思います。その存在の大きさに気づいたのは、南米最高峰のアコンカグア(※)に初めて挑戦した17歳のときでした。

当時は、自分の進みたい道が見えなくなり、暗いところでうずくまっているような心境でした。「いつまでもこのままでいるわけにはいかない!」と一念発起して、いまの自分が想像もできないようなスケールの大きい場所を探したときに行き当たったのがアコンカグアでした。

高校生の私が精一杯貯められるお金でたどり着ける「自分の限界を超えるだろう、一番すごい場所」がそこだったんです。アコンカグアに登れば、何か少しでも自分を変えられるだろうと思いました。

※アンデス山脈にある標高6,962mの山で、アルゼンチンとチリの国境付近のアルゼンチン側に位置する

次の一歩を踏み出すためにアコンカグア登頂計画を立てるなんて、人生に足踏みしていたとは思えない大胆さです。

篠原:そうですよね(笑)。でも、「いまの自分を変えなくては」と心の底から思ったとき浮かんできたのが、思い出深い「山」という場所だったんです。

初挑戦したアコンカグアは、雪の影響もあり4,800m地点で撤退することになったんですが、登山中、南壁が見える場所に立ったとき「父と一緒にこの景色を見たい」と強く思って。それが私の進路を決めました。

山に背中を押されて、登山ガイドの道へ進むことになった、と。

篠原:アコンカグアという自分のレベル以上の山を歩いてみたからこそ、登山者にとっての「ガイド」という存在の大きさを実感しました。幼いころ、父が私にしてくれたように、今度は私が荷物を背負って父の前を歩けるようになりたい。いまも最終目標は、父をアコンカグアまで連れて行けるガイドになることです。

(写真提供:篠原果鈴)

女性1人の専門学校で

「登山ガイドになる」と伝えた際、周りのリアクションはいかがでしたか?

篠原:友だちはけっこうびっくりしていたと思います(笑)。両親は心配しつつも、想像していたより温かい反応でした。

だけど、ガイドになるための専門学校に入学すると、同期に女性は私しかいなくて。実技や実習で山に入ると、身体能力の男女差をはっきりと感じました。「こんなに差があるのか」と最初は正直ショックでした。

熱意だけでは越えられない部分もあります。体力や筋力だけでなく、身体のつくりも違いますから。ホルモンバランスの影響を受けやすい女性の身体は、コンディションを一定に保つ難しさもある。現実と理想のギャップに悩み、中退してしまう女性も少なくありません。

プライベートではロッククライミングを楽しむ(写真提供:篠原果鈴)

男性の身体能力が基準だと、マイナスからスタートするような感覚ですよね。

篠原:まさにそうです。その差をどう埋めるか悩んだこともありました。でも、登山ガイドの仕事は、体力に不安があったり、山に行くことを躊躇してしまったりする人が、安心して山歩きを楽しめるようにサポートすること。

男性と同じようにはいかない場面があることも受け入れたうえで、登山にともなう「つらさ」を理解できる自分だからこそ、寄り添えることもあると思っています。そう考えるようになってから、この仕事と向き合えるようになりました。

小さな不安に、寄り添えるガイドでありたい

女性の参加者のなかには、女性ガイドを選んで参加されたという方も少なくないのでは?

篠原:たしかに、私が引率するツアーに参加されるのは女性のお客さんも多く、生理中の登山に関する相談を受けることもあります。ちょっとした不安や気がかりって、つい飲み込んでしまいがちですけど、同性だからこそ共有しやすい部分もあるのかもしれません。

正直なところ、若い女性であることが登山ガイドとしてプラスに働くことはまだ多くないと思っています。ただ、私のようなガイドもいるということが、誰かが山歩きを始めるときの心のハードルを少しでも下げられたらうれしいです。

プラスに働かないというのは、いわゆる「ナメられやすい」みたいなことですか?

篠原:そうですね、どうしても頼りなく見られてしまうことはあります(笑)。だからこそ、プライベートでは難易度の高い山に挑戦を続けています。登山ガイドとして自信を持ちたいという気持ちもあるんです。

挑戦を重ねることで、虚勢を張らなくても自然体でお客さんを案内できるようになる。そうやって登山者としても、ガイドとしても、成熟していけると思っています。

あとはやっぱり、いまの私にとって山は職場でもあるので、「山で過ごす時間を前向きでいるために、また山に行く」というサイクルをつくろうとしているのかもしれません。登山ガイドを選んだ自分の決断を、行動によって正解にして行きたいと思っています。

次の世代へ、背中で伝える想いーー坪井保菜美

篠原さんを始め、山に親しむ女性たちの背中をそっと押せたら。

そんな想いを込めて、今回のコラボウェアのイラストを描き下ろしてくださったのが、新体操日本代表、通称「フェアリージャパン」の一員として活躍した坪井保菜美さん。

アスリートにとって競技寿命は切っても切り離せないもの。そのなかでも新体操は現役でいられる期間が短いといわれています。

現在は指導者兼アーティストとして活躍する彼女は「アスリートのセカンドキャリアを発信することで、次世代のアスリートが抱える将来の不安を少しでも軽減できたら」と語ります。

坪井保菜美。1989年、岐阜県生まれ。早稲田大学スポーツ科学部卒。5歳から新体操を始め、2008年北京オリンピックに日本代表「フェアリージャパン」のメンバーとして出場。2009年新体操ワールドカップ種目別優勝。同年の世界新体操選手権大会を最後に現役引退。現在は新体操指導者、モデル、ヨガインストラクターとして活動するほか、絵を生かしたアーティストとしても表現の幅を広げている。

後進の指導にあたりながら、アーティストとしても活動されている坪井さん。引退前からそのセカンドキャリアは思い描いていたのでしょうか?

坪井:まったく考えていませんでした。引退当時はまだ20歳。同級生は就活をしたり、働き始めたりしているなかで、5歳からずっと打ち込んできた新体操が、初めて生活からなくなり、どんな行動をとっていいか正直わからない日もありました。当時は大学三年生のときで、初めて競技のない学生生活を送りました。

小さいころから人とのコミュニケーションが得意なタイプではなかったので、言葉ではなく身体で表現する新体操は、私に合っていたんだと思います。それと同じ感覚で、昔から絵を描くことやものづくりが好きでした。

アスリートとして第一線から退いたとき、絵を描く時間がこれまで以上に増えていって。初めは趣味でしたが、周囲から「明るい気持ちになる」「笑顔になれる」と言ってもらえるようになり、もっと多くの人に観てもらいたいと思うようになりました。それがアーティスト活動を始めるきっかけでした。

踊りの表現者から、アートを通した表現者になりたいと思いました。

「前を向く姿」を描くということ

今回のコラボレーションはいかがでしたか?

坪井:もともと私は、上を向いている子をモチーフによく描いていて、それがいつの間にか自分のアイコンのような存在になっていたんです。

今回、国際女性デーというテーマをいただいたとき、「明るく元気になるようなデザインにしたい」と思いました。その瞬間、あの子たちがぴったりだと感じたんです。

あの子たちが上を向いて、それぞれのペースで前に進んでいる姿を描きました。私自身も毎年登山をするのが恒例となっているので、これまでに見た登山中の景色をデザインに入れたいと思っていました。

Tシャツとハットではデザインの印象が違いますね。

坪井:Tシャツは8人がそれぞれの楽しみ方で登山をしている様子を描きました。ロゴは、岩や石段など斜面をイメージしています。一方、ハットはコロンビアのロゴをモチーフにしつつ、細やかな刺しゅうを活かしながら遊び心を加えたデザインにしています。

でこぼこ道を、それでも上を向いて進む

コロンビアのロゴをこの子たちが登っていく様子が、まるででこぼこした山道を歩んでいるようで、平坦ではない女性の人生を象徴しているようでした。

坪井:そう言ってもらえるとうれしいです。ハットのほうを見るとよりわかりやすいのですが、いびつな道を上向きに進んでいく印象を出したくて、刺しゅうの入れ方もギリギリまで大きく、角度も思い切って傾けました。修正を繰り返して、何度もサンプルを出していただいたんです。

実際に私が山ですれ違ってきた女性を思い浮かべながら、「この子たちはどんな気持ちで登山しているのかな」と、1人ひとりの人生に想像を巡らせて描きました。(Tシャツを指差して)ちなみにこの女の子は、自分をイメージして描いたんですよ(笑)。



本当だ、髪色もそっくりですね。よく見ると、女の子もロゴの模様も、描き込みが細かくて楽しいです。

坪井:じつは、この子たちの服装は実際のコロンビアの製品を参考にしています。ハットのほうは、ロゴのなかの模様に、山を歩いたときに目に入ってくる景色を重ねています。岩肌や草花、空に浮かぶ雲、木の枝……そのすべてが、登る山によって色彩も違いますよね。

このハットをかぶって山に登り、「このモチーフはこれかな?」と探してもらえたらうれしいです。

アイテムを手にした人の反応が楽しみですね。

坪井:はい。個展を開いたときにも感じたんですけど、絵を見たときの第一印象と、作家の意図や解説を聞いたあとの印象は、少し変わるところがありますよね。

たとえば、私が「木」をイメージして描いたものが、見る人にはまったく違うものに見えることもある。その感じ方の違いがとても面白いと思っていて。解釈を聞くたびに、十人十色だなと思っています。

私は最初から「これを描こう」と決めて描き始めるタイプではないので、作品を観た人が感じたものはすべて本物。だから逆に皆はどんなふうに受け取ったのかを聞きたいくらいです。

今回のアイテムも、ぜひ感想が聞きたいですね。SNSにアップしてくれるとうれしいな。どの子に自分を重ねたとか、「このウェアは私も持ってる!」「この山を登るのがおすすめですよ!」とか(笑)。

皆さんがこのアイテムを身に着け、どんなコーディネートで楽しんでくれるのかも楽しみです。

自分の歩幅で、前へ進むということ

山を登ることは、前に進むこと。でこぼこ道を歩くことは、自分の人生を歩くこと。

篠原さんにとって山は、父と対話する場所であり、自分を変える決意をした場所でした。
坪井さんにとって山は、女性たちの姿を重ねるキャンバスになりました。

自然のなかで心を整える時間も、上を向いて描かれた子どもたちも、どちらも「前へ進もうとする姿」を映しています。

山を歩けば、心は満たされていく。

それはきっと、誰かと比べるのではなく、自分自身の歩幅で進むという選択なのかもしれません。

PROFILE

篠原果鈴
【Instagram】@karin_shinohara
2000年、東京都生まれ。日本山岳ガイド協会認定登山ガイドステージⅡ。国際自然環境アウトドア専門学校山岳プロ学科を卒業後、株式会社フィールド&マウンテンに所属し、登山ガイドとして活動。初心者から経験者まで幅広い登山者をサポートしている。

坪井保菜美
【Instagram】@honamitsuboi
坪井保菜美。1989年、岐阜県生まれ。早稲田大学スポーツ科学部卒。5歳から新体操を始め、2008年北京オリンピックに日本代表「フェアリージャパン」のメンバーとして出場。2009年新体操ワールドカップ種目別優勝。同年の世界新体操選手権大会を最後に現役引退。現在は新体操指導者、モデル、ヨガインストラクターとして活動するほか、絵を生かしたアーティストとしても表現の幅を広げている。

Text:Urara Konishi
Photo:Chiemi Kitahara
Edit:Kyohei Kawatani(CINRA)