札幌市とアウトドアブランドのコロンビアスポーツウェアジャパン(以下、コロンビア)は2024年11月に包括連携協定を締結しました。札幌市が有する広大なフィールドや自然環境などの地域資源と、コロンビアが持つアウトドアに関する知見を活用し、持続可能な世界都市を目指すものです。
連携協定の足がかりとして、コロンビアから札幌市消防局の山岳救助隊にウェアを寄贈しました。ここでは、人命救助の第一線で活躍する山岳救助隊の日々の活動を紹介しつつ、札幌市民がアウトドアアクティビティを楽しむ上での注意点についてお伝えします。
6名からなる、少数精鋭部隊
札幌市では南消防署のほか、手稲消防署と定山渓出張所の計3箇所に山岳救助隊が配備されています。今回は南消防署の小笠原隊長が率いる6名の救助隊に取材してきました。隊長、副隊長、隊員、機関員の計6名という構成です。山岳救助隊の主なミッションは札幌市内の山林での道迷いやケガ人の救助です。
札幌市消防局によれば、コロナ禍前の2019年度の山岳救助隊の出動件数は29件に対し、2023年度は48件と倍近くに増加した年度もあり、アウトドアへの関心の高まりから、道迷いや事故が増えているのも事実としてあるようです。
ここからは山岳救助隊の勤務の一部を紹介していきます。
まずは事務所内でミーティング。その日の業務スケジュールを中心にメンバー間で共有します。
その後は資機材のチェック。ロープやカラビナのほか、ケガ人の手当てをするための資機材の数や不備がないかを入念にチェックします。
山岳救助隊では山奥に向かうこともあるため、緊急車両はアウトドア向けのミニバンタイプになっています。
資機材をチェックしたら、緊急車両に積み込みます。
この日は近くの山林でケガ人を救出する想定の訓練を実施。
実際に担架に乗せてもらいました。しっかり固定されるため、運ばれているときも安心感があります。
山林での地図読みや、クマの痕跡がないかなどの安全面もチェックします。
屋外訓練から戻ったら、訓練の反省点などをすぐに共有。
業務の合間に、筋力トレーニングも行います。
※通常は休憩時間などを活用しているそうですが、特別にトレーニングの風景を見せていただきました。
クマ対策の基本は鈴やクマよけスプレーを携行して、まずはクマの存在に意識を向けること
午後からは小笠原隊長に消防吏員を目指したきっかけやアウトドアアクティビティを楽しむ上での注意点を聞いてみました。
小笠原隊長が消防吏員を目指したきっかけや山岳救助隊を志望したきっかけについて教えてください。
漠然としていましたが、就職を考えたときに事務所でじっとしながら働くよりも、体を動かす仕事がいいと思ったことがきっかけでした。幼少時代から公園のジャングルジムで遊んだり、壁をよじ登ってみたり、探検したりすることが好きだったこともあり、消防士の訓練もおもしろそうだと思ったんです。山岳救助隊については、志望して配属されることもあればジョブローテーションで配属されることもあります。私の場合はプライベートでも釣りやスノーボードを趣味としているということもあり、山を愛する皆さんと同じようにアウトドアアクティビティを楽しんでいるため、もし山でケガをしてしまっても、安全で迅速に救助して、ケガが治ったら再び楽しんでもらいたいという思いから志望して配属されました。
札幌市民にもアウトドアアクティビティを趣味にしている人も少なくないと思います。一方で全国的にもクマに関するニュースが目立ちます。救助・捜索活動などで山に入る場面が多いみなさんは、普段からどのような対策を心がけていますか?
クマ対策の基本としては、クマの個体によっても習性が違うため一概には言えませんが、いかに出会わないようにするかが重要です。そのためにまずは自分の存在をクマに知らせる必要があります。調査や出動時には、クマ鈴やクマスプレーを携行するだけでなく、笛を鳴らしたり、声を出したり、手を叩いたりと、異なる音を出してこちらの存在をアピールするようにしています。風向きによって、動物特有の匂いがすることもあるので、匂いも意識しながら行動しています。
クマ対策の基本は鈴やクマスプレーを携行して、まずはクマの存在に意識を向けることです。万が一遭遇してしまった場合のシミュレーションも私たちは日ごろから行っています。
最後に、小笠原隊長はプライベートでもアウトドアを趣味にしているとのことですが、アウトドアアクティビティを楽しむ上で留意しておくべきことや市民へのメッセージはありますか。
私自身、仕事でもプライベートでもアウトドアに身を置く際に意識していることは「慣れが1番こわい」ということです。何度も行ったことがある山に入る時こそ、行動計画を立てることが重要だと思います。たとえば何時までにどの地点まで行くかを決めておく。それだけでも、急な天候の変化があった際にリスクを考慮して途中で引き返すという判断をするための目安になります。無計画なまま入山してしまうと、ついつい夢中になってしまい、冷静な判断ができなくなってしまいがちです。
あとはどの山に入るのか、可能な限り詳細なエリアを家族やまわりの人たちに共有しておくことも重要です。万が一遭難してしまった場合にも、そういった情報が大きな手掛かりとなります。
札幌市は都会でありながら、身近に自然に触れることができる魅力的な都市だと思います。アウトドアを楽しむ人たちの一助になれば幸いです。
(プロフィール)
札幌市消防局 南消防署警防課 消防三係
南特別救助隊長 小笠原 光
札幌市出身。1988年生まれ。山岳救助隊の経験は計7年。消防士としては18年目。現在、札幌市南消防署で山岳救助隊長を務めて4年目となる。
Text:Nobuo Yoshioka
Photos:Satoshi Eto