自衛官に学ぶ、防災に役立つアウトドアスキル10選。都市でも使えるサバイバル知識

自衛官といえば、数ある職業のなかでも「野外=アウトドア」で過ごす時間が圧倒的に長い仕事。訓練や災害・救助の現場で培った知恵や工夫は、都市に暮らす私たちの防災にもきっと役立つはずです。

今回は、Instagramで防災テクニックを発信し、注目を集めている「自衛隊東京地方協力本部」の広報係である池田竜也さん、根本悟さんのお二人に、身近で実践できる防災アイデアと、災害時に必要な心構えについてうかがいました。

左から池田竜也さん、根本悟さん

「救助が届くまでの期間」をしのぐ準備をしておこう

まずは現役自衛官として池田さんに、災害の備えに対する心構えを教えてもらいました。

「私は伊豆大島の土砂災害や東日本大震災で救助活動にあたり、老若男女さまざまな被災者の方々と接してきましたが、事前に備えていた方はごくわずかだった印象です。災害が発生すれば、私たちもすぐに救助に向かいますが、どうしても救助が届くまでにはタイムラグが生まれてしまいます」(池田)

大規模災害の記憶や教訓は多くありますが、日常的にその備えを意識している人は決して多くないのが現状。そのため、「自分には関係ない」と感じてしまい、備えが後回しになるケースも見受けられます。しかし、救助が届くまでの「空白の時間」をどう生き延びるかは、誰にとっても切実な課題です。



登山やキャンプなど、日ごろからアウトドアに親しんでいると、防災に必要なグッズが自然とそろっていくのは実利的なメリットの一つです。陸上自衛隊の精鋭集団である第1空挺団(パラシュート部隊)に所属していた根本さんは、自身の経験をこう振り返ります。

「楽しいアウトドアと違って、訓練は過酷なものですが、何日も続く野営生活のなかでは、やはり息抜きも必要になります。そんなとき、羊羹などの甘いものはとてもありがたい存在なんです。被災時も精神的に厳しい状況に置かれることが多いため、ストイックな備えだけでなく『おやつ』も用意してあげてください」(根本)

まず確認したいのは「合流ポイント」

「大規模災害に備えよう」といわれても、具体的に何を準備すればよいのかイメージしづらい人も少なくないはず。まず何から始めるべきか尋ねたところ、意外な答えが返ってきました。

「防災グッズを揃えることも大切ですが、最初の一歩としてやってほしいのは『家族との合流ポイント』を決めておくことです。近くの避難所がどこにあるかを確認し、『被災して家族の行方がわからなくなったら、ここで合流しよう』と話し合っておいてください。また、仕事中に被災する場合に備えて、職場近くの避難所も確認しておきましょう」(池田)

まずは合流ポイントを確認する。見落としがちなポイントですが、非常に重要です。さらに防災グッズについても、押さえておきたいポイントがあります。

「水や非常食の備蓄は基本ですが、非常食は『買って満足』しがちです。まず実際に食べてみて、味や量を把握しておきましょう。それと防災バッグ。とくに衣類は要注意で、季節によって必要なものが変わるので、衣替えのタイミングで中身を見直すのがおすすめです」(池田)



東日本大震災での救助活動を経験した池田さんによれば、都市部で災害が起きた場合、住居が全壊していなければ避難所で過ごすのは数日程度で、ライフラインが復旧すれば自宅に戻って生活を再開するケースもあるといいます。

そのため、防災バッグに入れて持ち出すものと、自宅に備蓄しておく水や食料などを分けて考えておくことも大切です。

平時から災害に備えるためにいまからできること

災害時に問題になるのが、通信手段です。救助活動の経験をもつ二人によれば、私たちが日常的に使っているメッセージアプリが有効だといいます。
「電話が通じなくても、テキストメッセージは使える場合が多かったですね。各サービス事業者も、災害時の活用に向けた機能や運用を進めているようです(※)」(根本)

「回線が混雑し、通話やメッセージが届きにくくなることがあります。地震で通信設備が被害を受け、ネット自体が使えなくなる場合もあります。そんななか、SNSなどのアイコンを『無事です』という表示に変えて安否を伝える人が多くいました。現在はワンタップで状況を共有できる機能もあるので、ぜひ活用してみてください」(池田)

※たとえばLINEの「LINE安否確認」では、大規模な災害が起こった際に、自分の安否を知らせたり、友だちの安否を一覧で確認できたりする

池田さんは、防災に便利なグッズやツールに加えて、「実際にやってみる」ことの大切さも強調します。

「陸上自衛隊では、道路の寸断や公共交通機関の停止を想定し、駐屯地まで歩いて行く訓練をしています。特に都市部で働く方は、災害時に家までの道を知らないことも多いはず。自衛隊員のように歩いてもいいですし、最近はレンタル自転車などで帰宅ルートを試してみるのも備えになりますよ」(池田)

自衛隊ならではのユニークな発想ですが、平時から自分なりのサバイバルシミュレーションをしておくこと。それもまた大切な防災の一つです。

アウトドア好きも必見。自衛隊の防災テク10選

災害時の備えは、特別な装備や知識が必要だと思われがちですが、実はアウトドアで使う道具や知恵が、そのまま防災にも応用できます。ここでは池田さんと根本さんに、「アウトドア×防災」の視点で、日常にも取り入れやすい実用テクニックを教えていただきました。

1.レインジャケットでつくる、簡易タープの張り方
2.ペットボトル×スマホで、簡易ランタンをつくる
3.ペットボトルや保存袋でできる、簡易ウォーターサーバー
4.ビニール袋で三角巾、手拭いで止血。応急処置の工夫
5.重たいバックパックをラクに背負う自衛隊メソッド
6.衣類を小さくたたむ&濡れない収納術
7.歩いてもほどけにくい、靴ひもの結び方
8.ペットボトルをまとめて運ぶ、ひも活用テク
9.ひも1本でできる簡易物干しの結び方
10.靴擦れを防いで、長時間の徒歩移動に備える

1.レインジャケットでつくる、簡易タープの張り方

山でも起こることですが、急な雨をしのいで止むのを待つには、雨除けになるものがあると安心です。なにもなくても、レインジャケットを工夫すれば簡易的な雨除けをつくれます。こうした登山や野営の知恵は、災害時にも役立ちます。



用意するもの
  • ひも
  • レインジャケットやレインポンチョ
  • 石ころ、もしくはペットボトルキャップ

今回は石ころの代わりにペットボトルのキャップを使用

手順
1.ペットボトルのキャップを、レインジャケットの肩や裾の4隅にあてがう
2.キャップを包み込むように、生地ごとひもでくくる
3.キャップを包んだ部分にひもを一周させ、輪っかをつくる
4.ひもの先端を輪の根本に一周巻きつけ、さらに輪のなかに通して締める
5.同じ結び方を四隅すべてに行う
6.それぞれのひもを木や柱などにくくりつければ完成
ペットボトルのキャップを、レインジャケットの肩や裾の4隅にあてがう
キャップを包み込むように、生地ごとひもでくくる
キャップを包んだ部分にひもを一周させ、輪っかをつくる
ひもの先端を輪の根本に一周巻きつけ、さらに輪のなかに通して締める
このような結び目をつくる
同じ結び方を四隅すべてに行う
レインポンチョを使えば、大人二人が入れるほどのサイズに

2.ペットボトル×ヘッドライトで、簡易ランタンをつくる

被災時、夜の明かりは欠かせません。でも、懐中電灯やヘッドライト、スマホのライトでは、照らす範囲が限られるため不便に感じることもあります。そんなときに役立つ、簡単な解決方法があります。



用意するもの
  • ヘッドライト、またはスマホ
  • プラスチックカップ
  • 水またはスポーツドリンクが入ったペットボトル



手順
1.ヘッドライトやスマホを上向きにして、その上にプラスチックカップを被せる
2.さらにその上にペットボトルを置く
3.すると光が乱反射して、周囲をやわらかく照らす
ライトだけだと光が一点に集中して周囲が暗いので……
ライトの上にプラスチックカップをかぶせ、その上にペットボトルを置くと……
光が乱反射して、周囲をやわらかく照らす
「ペットボトルの中身は、スポーツドリンクなど、水よりもやや濁りのある液体のほうが拡散光として効果的です」(根本)


ペットボトルのなかの液体はスポーツドリンク

3.ペットボトルや保存袋でできる、簡易ウォーターサーバー

災害時、水は貴重な資源。限られた量をできるだけ無駄なく使うために、身近なもので節水ウォーターサーバーをつくる方法があります。



用意するもの
  • ペットボトル
  • プラスドライバーなどの先端が尖った道具
  • 高さのある台

手順
1.水の入ったペットボトルを台の上に置く
2.先端が尖った道具で、ペットボトルの底付近に穴を開ける(穴が開いた瞬間は水が少し出る)
3.ふたを締めると水が止まり、ふたを緩めると水が出るウォーターサーバーに
水の入ったペットボトルを台の上に置く
先端が尖った道具(今回はキリを使用)で、ペットボトルの底付近に穴を開ける。穴が開いた瞬間は水が少し出る
ふたを締めていると水は出ない
ふたを緩めると水が出る。これでウォーターサーバーの完成
「この仕組みを使えば、必要な分だけ水を出せるので節水につながります。また、ペットボトルがなくても、ジッパーつき保存袋にストローを下から刺せば代用可能です。ストローの口が水面より上にあれば水は止まります」(池田)
ストローは先端を切って尖らせると貫通しやすい
保存袋にストローを刺す
ストローの口が水面より上にあれば水は止まる
水面より下にずらせば水が出る


「さらに、保存袋の水面より上に小さな切れ込みを入れるだけでも、簡易ウォーターサーバーになります。袋の下を押し上げると水が少しずつ出てくる仕組みで、節水しながら使いたいときに便利です。壁に吊るして使うとさらにラクになります」(池田)
カッターで切り込みを入れる
袋の下を押し上げると水が出てくる

4.ビニール袋で三角巾、手ぬぐいで止血。応急処置の工夫

※本稿は、災害などで適切な用具が手元にない非常時を想定し、代用品や応急処置の方法を紹介しています。日常的な使用や代用品の利用を推奨するものではありません

ビニール袋を使った簡易三角巾

災害時に腕を骨折、捻挫、脱臼したとき、患部を固定するために三角巾などが必要になることがあります。これも自衛隊メソッドだと簡単につくることができるそう。



用意するもの
  • 持ち手のあるコンビニのビニール袋
  • はさみ




手順
1.袋の側面(持ち手から底をつなぐライン)を一直線にカット
2.切り開いた袋の持ち手部分を頭からかぶせて腕を吊るす

袋の側面(持ち手から底をつなぐライン)を一直線にカット
反対側も同様にカット
切り開いた袋の持ち手部分を持ち……
頭からすっぽりかぶせる
腕を通す
吊り下げるように固定して完成
「特別な素材は必要なく、外出先や自宅でもすぐに対応できる応急処置です。素材の柔らかさと伸縮性もポイント。災害時の応急用として覚えておきたい一手です」(池田)

手ぬぐいを使った簡易止血
地震の落下物などで手足を負傷し、出血してしまった場合は、すぐに応急処置として止血が必要です。とはいえ、やり方がわからないという人も多いはず。そんなときに役立つのが、自衛隊で実践されているシンプルかつ効果的な止血法です。



用意するもの
  • 手ぬぐいやタオル
  • ボールペンや木の枝


手順
1.タオルを幅4、5cmに折り、出血している手足のつけ根に一度巻きつけて軽く結ぶ
2.もう一度結び、その結び目の途中にボールペンを差し込む
3.強く結ぶ
4.ペンをぐるぐると回して締めつけ、圧迫止血を行う
5.しっかり締まったら、ペンをタオルの下に挟んで固定する

タオルを幅4、5cmに折り、出血している手足のつけ根に一度巻きつける
そして軽く結ぶ
もう一度結ぶ
結び目の途中にボールペンを差し込み、強く結ぶ
ペンをぐるぐると回して締めつけ、圧迫止血を行う
しっかり締まったら、ペンをタオルの下に挟んで固定し、完成
「動脈が通る脇や足の付け根といった四肢を圧迫することで出血を抑えます。ただし、長時間の圧迫は壊死(えし)につながる可能性があるので、数分ごとに止血状態を確認することが大切です。これはあくまでも応急処置。救助が来たら必ず医療従事者に引き継いでください」(池田)

5.重たいバックパックをラクに背負う自衛隊メソッド

災害時には、重いバックパックを背負って長距離を移動しなければいけない場面もあります。そんなとき、負担を軽減するために知っておきたいのが、自衛隊式の「背負い方」です。



手順
1.バックパックの最下部が腰、または腰よりやや上にくる位置で背負う
2.ウエストベルトをしっかり締め、重さを腰で支える
3.ショルダーストラップを締めて全体のバランスを整える

バックパックの最下部が腰、または腰よりやや上にくる位置で背負う
ウエストベルトをしっかり締め、重さを腰で支える
そしてショルダーストラップを締めて全体のバランスを整えたら完成
「登り道では、ショルダーストラップが肩に食い込みすぎると肩がうっ血する恐れがあります。肩に少し余裕を持たせ、重さを腰で支える意識が大切です」(根本)

肩に少し余裕を持たせ、重さを腰で支える意識が大切

「反対に、下り道では、ショルダーストラップをやや緩めてバックパックを後ろに傾けることで、歩行の安定感が増し、体への負担が少なくて済みます」(根本)

ショルダーストラップをやや緩め、バックパックを後ろに傾ける

6.衣類を小さくたたむ&濡れにくい収納術

登山や災害時、バックパックの容量を圧迫する原因の一つが衣類。ここでは、自衛隊でも実践されている「コンパクトなたたみ方」と「濡れ対策の収納法」を紹介します。

コンパクトなたたみ方



用意するもの
  • Tシャツ
  • 靴下や下着
  • ジッパーつき保存袋(必要に応じて)


手順
1.Tシャツの裾を後ろに折り返す
2.Tシャツの左右を真ん中に向かってたたむ。
3.中央に靴下や下着を並べる
4.向きにして半分にたたみ、くるくると丸める
5.さらに半分折り、縦長にする
6.最後に折り返しておいた裾の部分を返して包み込むと、崩れずにまとまる

Tシャツを広げた状態
裾を後ろに折り返す
Tシャツの左右を真ん中に向かってたたむ
反対も同様に
中央に靴下や下着を並べる
向きを調整して半分にたたむ
くるくると丸める
折り返しておいた裾の部分を返して包み込む
完成。コンパクトにまとまる
「Tシャツのなかに靴下や下着を入れると、1日分の着替えがひとまとめにできます」(根本)

濡れ対策

「自衛隊では、衣類の水濡れを防ぐため、衣類を一枚ずつジッパー付き保存袋に入れ、それを一日ぶんごとにまとめてさらに袋に入れて、さらに大きな防水袋に収納します。野外で長期行動するとき、濡れた服は寒い時期は低体温症や凍傷、暑い時期は体力の消耗につながるため、防水対策は重要です」(根本)



手順
1.衣類を1枚ずつジッパー付き保存袋に入れる
2.1日ぶんの衣類一式を、さらに大きめのジッパー付き保存袋にまとめる
3.複数まとめた袋を、防水バッグに収納する
4.防水バッグのなかにも、あらかじめビニール袋を仕込んでおくと安心

衣類を1枚ずつジッパー付き保存袋に入れる
1日ぶんの衣類一式を、さらに大きめのジッパー付き保存袋にまとめる
防水バッグのなかにも、あらかじめビニール袋を仕込んでおくと安心
「一見、やりすぎにも思えるかもしれませんが、これらはすべて過去の訓練や災害派遣で得た教訓から生まれたもの。自衛隊だけでなく山岳救助隊、登山家のあいだでも共有されている大切なルールです」(根本)

7.歩いてもほどけにくい、靴ひもの結び方

都市部で災害に遭うとバスや電車が使えず、徒歩での長距離移動を強いられる「帰宅困難」状態に陥ることがあります。そんなとき、意外とストレスになるのが靴ひもが途中でほどけてしまうこと。こちらも自衛隊が実践する「ほどけにくい結び方」を教えてもらいました。



手順
1.靴ひもを、1回ではなく2回くぐらせて交差させる(ネクタイのダブルノットの結び方を応用することで、通常より摩擦が増え、ほどけにくくなる)
2.片方のひもでちょうちょ結びの輪をつくる
3.もう片方のひもをその輪のまわりに巻きつけ、できた輪の下にある三角形の隙間に通す
4.ひもの先端を引き抜き、もう一つの輪をつくる。
5.両方の輪を均等に引き、中央で形を整えたら完成

まずはちょうちょ結びの要領で、靴ひもを結ぶ
次に紐の先端をつかみ、もう一度、結んだひもにくぐらせる
ネクタイのダブルノットの要領で、結び目を2つつくって締める
結び目が2つできることにより、摩擦が増えてほどけにくくなる
ちょうちょ結びの輪をつくる。右手側のひもで輪をつくり、根元をしっかりつまむ
残ったひもを輪の根元にぐるっと巻きつける
巻いたひもの下に隙間が生まれる
ひもの先端を隙間に通す
先端を引き抜くと、もう一つの輪が現れ、ちょうちょ結びのかたちができてくる
両方の輪を均等に引く
中心で整えたら完成
「通常のちょうちょ結びよりも一手間加えるだけで、ほどけにくさが格段にアップします。特に災害時の徒歩移動や、長時間歩くアウトドア活動の際に重宝する知恵です」(根本)

8.ペットボトルをまとめて運ぶ、ひも活用テク

帰宅困難時や避難生活では、給水所から大量の水を一度に運ばなければならない場面があります。そんなときに役立つのが、効率よくペットボトルを持ち運ぶ方法。ひもを使うと、それが簡単に実現できます。



用意するもの
  • 長めのひも(両手を広げたくらいの長さ)
  • 2リットルのペットボトル

手順
1.ひもの中央にペットボトルを置く
2.ペットボトルのふたの上で半結びにし、結び目の輪にボトルの頭を通す
3.ひもをペットボトルの中央に回し、再度両端を上に持ち上げる
4.もう一度「手順2.」の動きを繰り返し、首元で固定する
5.最後に持ち手部分を作るように、ひもの両端を結ぶ
ひもの中央にペットボトルを置く
ペットボトルのふたの上で半結びをする
結び目を広げる
広げた結び目のなかにボトルの頭を通す
ひもをペットボトルの中央まで通す
両端を上に持ち上げる
もう一度、ボトルの上で半結びをつくる
結び目の輪にボトルの頭を通す
キャップの部分まで通す
紐を絞って定する
持ち手部分を作るように、ひもの両端を結んで完成
「これを複数作れば、ひもを肩にかけるだけで複数本を一度に運搬可能になります。手が空くのでバランスを取りやすく、長距離移動や給水所からの水の運搬にとても便利です」(根本)

9.ひも一本でできる簡易物干しの結び方

避難所では濡れた衣類を干すスペースや設備が十分でないこともあります。そんなときに役立つのが、ひも一本でできる簡易物干し。濡れた衣類を安全に干すためのロープワークを紹介します。



用意するもの
  • ひもやロープ
  • 支柱になる柱やポール(2本)

手順
1.支柱となる柱に、ひもを一周巻きつける ※このとき、ひもの先端がある側のラインが上にくるようにする
2.そのままもう一度、ひもを柱に巻きつける
3.一周目でできた輪に、ひもの先端を通す
4.さらに、一周目と二周目のラインのあいだから先端を引き抜き、締める

支柱となる柱に、ひもを一周巻きつける
ひもの先端がある側のラインが上にくるようにする
一周目でできた輪に、ひもの先端を通し、一周目と二周目のラインのあいだから先端を引き抜く
そして強く結ぶ
反対側も同様に結んで完成
「このやり方で結ぶと、ロープ状になったひもに濡れた衣類を干しても、重みでひもがずれたり抜けたりしにくく、安心して使えます。自衛隊では、テントとテントのあいだにこの結び方で物干しロープを張るのが基本です」(根本)

10.靴擦れを防いで、長時間の徒歩移動に備える

都市の中心部で被災した際、長距離を徒歩で移動して家まで帰らなければなりません。20km、30kmを超える長距離となると、靴擦れが一番怖いもの。自衛隊では長距離の行軍もあるため、独特の工夫があるそうです。

用意するもの
  • 消毒液
  • ベビーパウダー
  • ワセリン

※すべて手元になくても、特にワセリンだけでも効果あり(池田)


手順
1.歩く前、足を清潔にし、消毒液を塗る
2.次にベビーパウダーを重ねて塗布する
3.靴擦れが起きやすい部位(足の外側、裏、指のあいだ、かかと)にワセリンをたっぷり塗る
4.靴下を履く
5.歩き終わったあと、同じ箇所にワセリンを塗って保護すると効果的

歩く前に足を清潔にし、消毒液を塗る
ベビーパウダーを重ねて塗布する
全体的に塗っていく
ワセリンを上からたっぷり塗っていく
足の外側、裏、指のあいだ、かかとなど靴擦れが起きやすい部位はとくに塗る
靴下を履いて、歩く前の準備は完了
歩き終わったあとも同じ箇所にワセリンを塗り、保護すると効果的
「靴擦れは一度できると歩くのがつらくなるので、事前のケアが大切です。足の外側や裏、指のあいだ、かかとなど、まめができやすい箇所にワセリンをたっぷり塗るのがポイント。消毒液やベビーパウダーがあれば理想ですが、ワセリンだけでも十分効果があります。歩いた後のケアにも使えるので、防災ポーチに1本入れておくと便利です」(池田)

自衛隊流テクニックにチャレンジして、「備える力」を日常に

今回お二人に紹介してもらったテクニックは、どれも特別な道具がなくても、家にあるもので手軽に試すことができるものばかり。

日本は災害大国といわれていますが、「防災」はどうしても自分ごととして考えるのが難しいテーマでもあります。だからこそ、まずは家で試したり、あるいは登山やキャンプなどのアウトドアで気軽に実践してみることが大切です。

日常のなかで少しずつ、「備える力」を育てていけば、いざというときに自分や周囲を守る大きな助けとなります。
ぜひ、自衛隊直伝の知恵とテクニックを試してみてください。



(プロフィール)
池田竜也(いけだたつや)
1988年生まれ、東京都出身。2007年入隊。米軍との共同訓練や各地での災害派遣を経験し、現在は防衛省自衛隊東京地方協力本部広報係を務める。

根本悟(ねもとさとる)
1977年生まれ、福島県出身。1996年入隊。豊富な現場経験を経て、防衛省自衛隊東京地方協力本部広報係を務める。

※所属・役職は取材時点(2025年7月)のもの

HP:防衛省自衛隊東京地方協力本部
Instagram :【公式】自衛隊東京地方協力本部

Text:Kei Nakano
Photo:Kyoko Asano
Edit:Kyohei Kawatani(CINRA)