アフリカの広大なサバンナと四季のある日本との自然の違い、アウトドアの楽しみ方、そして自然のなかで求められるウェアの機能性とは? 自然観察をしながら、太田さんとともに日本の自然の新たな魅力を探ります。
※取材は2025年4月8日に実施。5月2日現在、本記事の取材で訪れたいろはの森歩道は危険木の伐倒処理のため、一時的に閉鎖中。東京神奈川森林管理署や高尾ふれあい推進センターのウェブサイトなどで最新情報をご確認ください
南アフリカで動物を追うプロが見た、日本の春
今回太田さんが登ったのは、JR高尾駅の西側に位置する裏高尾から日影沢キャンプ場を経て、高尾山山頂を目指す「いろはの森」コース。森の静けさに包まれたこの道を、鳥の声に耳を澄ませながら歩きました。


ときには足を止めて、野鳥を観察する姿も印象的でした。落ち着いた雰囲気のいろはの森は、木々に包まれた静かな登山道で、鳥の声がよく響きます。そんな空間のなかで、太田さんは耳を澄ませ、気配を探すように目を凝らしていました。

この日訪れた高尾山の山頂からは、快晴の空に富士山の美しい稜線がはっきりと姿を見せていました。
その後、山頂から足を伸ばして訪れた一丁平では、満開の桜が迎えてくれました。一丁平は、高尾山から小仏城山へ向かう登山コースの途中にある広場です。桜の向こうに広がる青空が、春の登山道を鮮やかに彩っていました。




高尾山の自然に触れてみて、いかがでしたか?
太田:快晴のなか、富士山と一緒に見た満開の桜はとてもきれいで、日本の春の景色に感動しました。植生も南アフリカとはかなり違っていて、山道でスミレの花がささやかに咲いている姿も印象的でした。スミレはよく見るとたくさんの種類があって、その違いを一つひとつ見分けるのも楽しかったです。


太田:日本は毎年同じ時期に同じ花が咲くのが面白いですね。四季があるからこそ、自然との関わり方に季節ごとのリズムがあって。一方で、南アフリカのサバンナは同じ時期でも年によって咲く花が違うので、予測ができない楽しさがあります。
今年は「String of Stars」(直訳すると星の糸)という小さくて白い、かわいい花がサバンナにたくさん咲いていて、そのなかをライオンが歩く光景はとてもドラマチックでした。
野鳥を見つけるコツは「読むように見る」こと
野鳥観察をしていて、印象的だった点はありますか?
太田:まず、驚いたのは野鳥を見つける難しさです。南アフリカの森も鳥を見つけるのは難しいですが、高尾山は木々の背丈があって、茂みの密集度も高い。小鳥の鳴き声は聴こえても、林冠に隠れてしまうのでなかなか姿を見つけられません。でも、だからこそ、撮影できたときの喜びは大きいんです。今回はキセキレイやコガラ、コイカル、ヤマガラといった小さくてかわいらしい鳥たちを見つけることができました。

どんなふうに探すと見つけやすいのでしょうか?
太田:景色を「本」のようにして見ることです。これはサファリガイドの師匠に習ったことなのですが、じっくり1点を見るのではなく、速読するようにサッサッと右から左へ視線を流して見るんです。違和感を覚えたらその部分を注視してみて、もし動きがあれば何かがいる可能性がある。そういう目で自然を見るようになってから、どんな環境でも動物を見つけやすくなりました。

太田:それからサバンナでも同じですが、動物の姿が見えなくても、自然のなかには観察できるものがたくさんあります。たとえば、大きな動物が残した痕跡や、鳥の巣などもその一つです。
高尾山では大型動物に出会うことはほとんどありませんが、それでも巣の穴や落ちているフンから、どんな動物が近くにいるのかを想像できます。そうした手がかりを辿ることで、山の自然もより深く楽しめました。



動物を守りたいという夢から始まったサファリガイドの道
日本ではあまり馴染みがないサファリガイドという仕事。太田さんはなぜこの道を選び、どんな思いでガイドを続けているのでしょうか。仕事のやりがいや、動物保護の取り組みについて訊ねました。
サファリガイドという仕事を選んだきっかけは?
太田:物心つく前から動物が大好きで、「動物を守る仕事がしたい」という夢がずっとあって。大学生のとき、国内外のボランティアやNGOのインターンなど、いろんな現場を経験していくなかで、南アフリカのボツワナという国で行われていたサバンナ保全プロジェクトに参加したのが転機となりました。そこで初めてサファリガイドという職業があることを知ったんです。
これまでモンゴルの草原やマレーシアのジャングルなど、いろんな場所を見てきたけれど、初めて行ったサバンナの国立公園の圧倒的なスケール感、そして完全に動物中心の世界でありながらすぐ隣には村があり、人間が近くで共存している風景に強く惹かれました。


太田:大学3年生のとき、現地の訓練学校に留学しサファリガイドの資格を取りました。ただ、外国人がガイドになるのは簡単ではなく、最初の数年間は無給の見習いとして経験を積みました。ようやく就職が決まったときは、本当にうれしかったですね。
朝4時に起きて、真っ暗ななか車を走らせ、お客さんを迎えに行く毎日。でも、地平線から昇る朝日を見るだけで、どれだけ寝不足で疲れていたとしても、最高に良い気分になれるんです。自然に元気をもらえている感覚です。
だからこそ、お客さんと一緒にサバンナを巡って、動物を探す時間が心から楽しくて。やりたくて選んだ仕事だからこそ、全部が魅力的に感じますし、サバンナの大自然のなかで暮らせていること自体に、究極の喜びを感じています。

ガイドの仕事をする傍ら、野生動物の保護活動にも取り組んでいるそうですね。
太田:最近はクラウドファンディングを活用して、日本の皆さんが寄せてくださった支援金で、現地のNGOとゾウにGPSをつける保護活動に取り組みました。私がガイドをしているクルーガー国立公園は、四国ほどの広さがあり、サバンナの自然がしっかり保たれている場所です。一方、公園の外では、人間による開発で道路や鉄道などのインフラが整備され、野生動物が自由に移動できる範囲は大きく制限されてしまいました。その結果、国立公園にとどまるゾウの数が増え、現在では過去最多となる2万頭に達しています。
行き場を失ったゾウは、近隣の村に出て農作物を荒らしたり、人の命を脅かしたりすることもあります。そうした問題を未然に防ぐため、私たちは繁殖期を迎えたオスのゾウにGPSを装着し、村の方向に移動している際にはアラートが届くように対策をしたんです。


歩きたいときに歩ける自然が、こんなに近くにある
広大なアフリカの自然と日本の自然では、その向き合い方や体験の仕方も異なります。サファリガイドの視点から見ると、日本の登山やアウトドアはどのように感じられ、どのような楽しみ方があるのでしょうか。
南アフリカのサバンナと日本のアウトドア、それぞれの楽しみ方にどんな違いがありますか?
太田:サバンナでは、目の前にライオンやゾウが現れることもあり、大型動物に出会える迫力が魅力です。ただ、いつもそうした動物に出会えるとは限りません。そんなときでも、鳥やチョウなど小さな生き物に注目すると、サバンナ特有の生態が見えて、じつはたくさんの魅力が詰まっていることに気づかされます。一方、日本の自然は、大きな動物が少ないぶん、鳥や植物、動物がいた痕跡など、細部に注目しながら楽しめるのが面白いですね。
それに、サバンナには危険な動物が多くいるため、必ずガイドと一緒に行動しなければなりません。勝手に歩くのはご法度なんです。その点、日本は一人で自由に楽しめる。南アフリカの人にとっても、ライフルを持ったガイドがいなくても自然を楽しめるのというのは、とても新鮮に映ると思います。


自然になじむウェアがうれしい理由
今回コロンビアのウェアを着て春の高尾山を満喫した太田さん。日本の登山とサバンナ、それぞれの環境で求められる機能性とはどのようなものでしょうか。そして南アフリカの自然に興味がある方へ向けたメッセージもいただきました。―サバンナと日本の山では、どのようなウェアを求められますか?
太田:サバンナでは、自然に溶け込むアースカラーのウェアを着ることが基本です。サバンナを歩いて野宿しながら探検するトレイルツアーに参加する場合は、バックパックなどのギアもアースカラーでそろえたいところですね。暑さや日差しへの対応も重要なので、通気性や速乾性は欠かせません。
日本の山へ行くときは、そういった機能性も大事にしつつ、ファッションとしてのかわいさもアイテムを選ぶ基準になりますね。今回のウェアは、見た目がかわいく着心地も良くて登山中でもテンションが上がりました。サバンナでもヘビーユーズできそうなアイテムばかりです。


太田:特に感動したのはミッドカットのハイキングシューズ。本当に軽くて長時間歩いても全然疲れないのが驚きでした。ブーニーハットも日差しをしっかり防げるし、防水性が高いのでサバンナの雨季にも使ってみたいなと思いました。


「ウィメンズローハイクロングスリーブシャツ」13,200円(税込)、
「ウィメンズジプシーバーズロングスリーブクルー」7,150円(税込)、
「バウンドレストレックレギンス」6,600円(税込)、
「セイバー シックス ミッド アウトドライ」16,940円(税込)

「ウィメンズウエストリッジフルジップダウンジャケット」19,800円(税込)。「サバンナは暑いイメージがありますが、朝のサバンナはかなり冷え込むので、1年を通してダウンは必須」だそう
最後に南アフリカの自然に興味がある方へ向けてメッセージをお願いします。
太田:私が提供しているツアー「Yuka on Safari」では、大きく分けて3種類のツアーを開催しています。一つはサファリカーで回るツアー。もう一つは自分の足で歩くトレイルツアー。そして、サファリガイド養成の訓練学校を短期間だけ体験できるツアーもあります。宿泊スタイルもさまざまで、ロッジはもちろん、テント泊、野宿など、自然との距離を選べます。日本の自然が好きな方なら、きっと南アフリカの大自然にも感動していただけると思います。ただ観光するだけではなく、動物と人間がどのように共存していけるのか、そんな問いについてもじっくり考える機会にもなるはず。ぜひサバンナの空気を感じに来てください。

PROFILE
1995年、アメリカ・ロサンゼルス生まれ、神奈川県育ち。日本人女性初の南アフリカ政府公認サファリガイド。 2016年からグレータークルーガー国立公園にてガイドとして活動。サバンナの魅力と現状を広く伝えようと、現地の情報をPodcastやYouTube、SNSから発信。著書に『サバンナで野生動物を守る』(講談社)、『私の職場はサバンナです!』(河出書房)。
HP:Yuka on Safari
Instagram:@yukaonsafari
Podcast:YUKA on SAFARI
Text:Eri Ujita
Photo:Sho Sato
Edit:Kyohei Kawatani(CINRA)