あいにくの雨ではなく、めぐみの雨。森や山がもたらす前向きな発想<俳優 小西真奈美>

鹿児島県出身の小西真奈美さんは、19歳で芸能界にデビューし、俳優やタレントとして活躍してきました。最近は森や山といった自然の中に身を置く時間を積極的に確保しており、森林浴ファシリテーターとしても活動しています。子どものころから大自然に囲まれて育ったという小西さんにとって、自然の中で過ごすことはまさに原点回帰。そんな小西さんのアウトドアライフに迫ります。

「積み減らし」をしていくことで大切なものが見えてくる

そもそも森や山といったアウトドアで過ごすことに興味を持ったきっかけについて教えてください。


きっかけは大きく2つあって、ひとつ目は原点回帰で休日に公園や森に足を運ぶようになったことです。子どものころは大自然に囲まれ、普段から海に行って、真っ黒に日焼けしたり、遠足の行き先も森や山というのが当たり前という環境で育ちました。

おとなになって芸能界に入り、東京に住みはじめてからは仕事も楽しく、おかげさまで日々がめまぐるしく過ぎ去ってしまうほど忙しい時期もありました。それはそれでとても良いことなんですが、どうしても忙しい日々が続くと心身ともに疲れてくるのを感じずにはいられないこともあったんです。

そんなときに、私の場合は幼少時代の記憶があるためか、気がつくと自然の中に身を置きたいと思うようになりました。仕事の合間で公園に行ったり、木々に囲まれているような場所に出かけたりするようになったんです。すると心も体も回復して、リフレッシュするのを実感でき、その体験からいっそう森に興味を持つようになりました。

もうひとつは環境問題に関心を寄せたことがきっかけとなりました。10数年前から自分がこの地球に対して、環境保護の面で何かできることがないかと考えていた時期があったんです。そのときに、環境問題についていろいろ調べたり、周りの人から聞いたりしていると、これは使っちゃダメだとか、これを使うとこんな問題に発展するよ、といったことが世の中にたくさんあるんだということに気付かされました。

偶然観た、環境問題に関連する映画では、木を増やして森をつくればあらゆる問題の解決につながるよ、という話が出てきました。すでに森や山といった自然に触れることの良さに気づいていたので、「これだ!」と思いました。最初は森をつくろうと考えたのですが、そんな簡単なことではありません。それならまずは自分でもっと森や山といった自然に親しみ、携わる人になろうと考えたんです。

最近は森林浴だけでなく、登山にも挑戦していると伺いました。小西さんならではの、森の中を歩くことや、登山の良さ・魅力について教えてください。

朝起きて準備をして仕事に向かうという日常があるとして、朝早くに起きて木々に触れに行くことは非日常で、私にとってはとても新鮮なことなんです。人間も動物と同じように、自然界から離れたままだとバランスが取りづらくなる。私の場合は自然に触れることなく心身ともにヘルシーに生きていくのは、「至難の業」と思うほど生活に欠かせないものになっています。

登山に関してはまだ初心者ということもあって、正直なところ「なぜ人は山を登るのか」と、平坦な道ではダメなのかといまだに思うことが少なくありません(笑)。それでも、キツい山道を登り切ると、そもそも元気に歩ける身体があって、素晴らしい仲間たちがいてくれれば、もうそれだけで十分じゃないか!と思わせてくれるんです。

自分にとって本当に大切なものが見えてくるので、守るべき価値観は守りつつも、いろんなものや考え方、固定観念を手放していく「積み減らし」をするきっかけを登山が私に与えてくれます。


体力やスキルが積み重なることと同じように、だれしも年齢を重ねるごとに考え方や価値観も蓄積されていきます。そうするとどうしても考え方や価値観が固定観念となり、それを手放せなくなってしまうこともある。

そんなときにモノだけでなく考え方や価値観も含めて「積み減らし」をすることで、本当に大切なものが見えてくることもあるんだなぁと登山を通じて感じ取れるようになりました

多くの人が仕事をしながら趣味の時間をみつけていると思います。小西さんにとって森や山の中で過ごすことは、オンとオフのバランスを保つ上でどのような影響がありますか?

自分にとって、間違いなくオンとオフの軸になっています。スケジュールがパツパツで忙しい日々を過ごしているときも、緑に囲まれた景色を思い浮かべるだけで深呼吸できるんです。

もちろん実際に忙しく働いている最中は、目の前のことに全力投球です。そんなときでも例えば寝る前、ひとりになる時間に自然の中に身を置いているときの感覚を思い浮かべるだけでもリセットされます。

どうしても忙しい日々が続いてしまうと、どこかで自分の体が悲鳴をあげて風邪を引いてしまったり、思考や体がピタッと止まってしまうようなことが、だれしもあると思うんです。私は自分の体を自分でコントロールできるとは思っていなくて、心と体を切り離して考えています。

体は自分が寝ている間も文句も言わずに働いてくれていますから、「もう少し頑張ったらまた森にいけるから、あと少しだけよろしくね」というように自分の体をいたわることで一緒に頑張れるようになるんです。

大切な人の死をきっかけに、自身だけでなく周囲への感謝の気持ちを絶えず持つようになりました

自分のことを客観的に捉えているんですね。今回、登山に同行させていただいて、私たち取材チームも小西さんからたくさん元気をもらいました。ポジティブな発想や元気の源はどこからきているんでしょうか?

森林浴や登山にいくと、当然ながら天気がいい日もあれば悪い日もあります。はじめは雨が降ると「あいにくの雨」と思っていたんですが、次第にそれが「めぐみの雨」と思えるようになりました。

もちろん雨が降ると濡れたり、汚れたりするので大変です。それでも、その雨のおかげで木々が喜び、良い香りを放ってくれるようにもなる。晴れた日は、ただ単に晴れてよかった!ではなく、山の天気って変わりやすいのに、私がくるタイミングは晴れてくれて本当にありがとう!と考える。

物事の捉え方を少し変えるだけで、当たり前のことに対して感謝の気持ちが自然と湧いてくるんです。そうしていると、不思議と周囲から「元気がもらえる」と言っていただけるようになりました。

加えて、私は幼少時代、おじいちゃん子でした。毎日のように一緒に近くの山に行ったり、森に行って木の実を採ったりして遊んでもらっていた記憶が今も残っています。その大好きな祖父が、ある日突然亡くなってしまったんです。



大人になるにつれて少しずつ理解できるようになる「死」というものを、私は幼いながらに目の当たりにしました。そのときは収集がつかないというか、何が起きたのかよくわからない状態。昨日まで当たり前のようにいた存在が、そこにはもういない。

突然、感謝の気持ちを伝えることもできなくなるという実体験から、身近な人や自分と関わる人への感謝の気持ちを絶えず意識するようになりました。

最後に、小西さんは今後アウトドアの魅力をどのように伝えていきたいですか?

森や山といったアウトドアに身を置くことについて、私はだれかにおすすめするときはタイミングを大事にしています。自然を欲したり、感じとりたいと思うタイミングは人それぞれだと思うからです。必要としてないときに無理に登山に誘っても、「今は休みたいのに余計に疲れちゃう」だとか、「虫がイヤなんだよね」だとか、マイナスに捉えられてしまう。みなさんが自然の空気や景色、感覚を欲しているなと感じたときに行動してみることが大事だと思うので、そのきっかけづくりができればと思います。


(プロフィール)
俳優・ハニーセラピスト・森林浴ファシリテーター / 小西真奈美

1978年10月27日生まれ。つかこうへい演出の舞台でデビュー後、映画「阿弥陀堂だより」で第26回日本アカデミー賞新人俳優賞などを受賞。映画「のんちゃんのり弁」で多数の主演女優賞を受賞。俳優として幅広い役柄を演じている。近年ではハニーセラピストとして、また、森林浴ファシリテーターとして、多くの女性に本物の美と健康を提供する活動も行っている。

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Text:Nobuo Yoshioka
Photos:Matthew Jones