「富士山ならではの体験に、より多くの人に触れてもらいたい」と願う、マウントフジトレイルクラブの太田安彦さん再登場。新ルールが導入された富士登山の現状とは?

7月上旬の山開きに向けて、2025年の富士登山ルールの変更点が発表されました。これを受け、2024年の新ルール導入時にお話をうかがった、マウントフジトレイルクラブ代表理事の太田安彦さんに再登場していただき、富士山登山ガイドとして体感した昨シーズンの様子と、新たなルール変更への期待をたずねました。


弾丸登山の激減で夜の富士山が静かに

まずは、太田安彦さんのご紹介から。ツアーガイドや環境保全、安全対策などを行うマウントフジトレイルクラブの代表理事であり、自らも富士山登頂回数600回超の経験を生かす富士山登山ガイド。そんな太田さんの出身地は、富士山麓の富士吉田市。しかし登る場所として意識しなかった“地元あるある”により、初の富士山登山は22歳になってから。それをきっかけに山に魅せられ、25歳でガイドに転身。

「然るべき技能と準備を整えれば、登山は自由であってほしい」

これは、ガイドであると同時に、山を愛する者としてのポリシーです。太田さんのプロフィールは、前回の記事で詳しく伝えているので、よければご一読を。

 

さて、昨年に続いて太田さんに登場していただいたのは、2024年に導入された富士登山の新ルールが現場でどのように機能したのか。加えて、前年から更新される2025年のルールに向けた期待をお聞きするためです。

ここで、この2年間の富士山登山ルールの要点を記します。
【2024年】
山梨県/吉田ルート
―五合目の登山道入口にゲートを新設。午後4時から翌日午前3時まで同ゲートを閉鎖し、山小屋の宿泊予約がある人などを除き通行不可とする。
―登山者が1日当たり4千人を超える場合も登下山道を閉鎖(山小屋の宿泊予約がある方は通行可能)。
―登下山道の通行料として、ゲート通過者は1人/1回につき事前決済で2,000円を徴収。任意の富士山保全協力金1,000円と合わせると最大3,000円。

静岡県/須走ルート、御殿場ルート、富士宮ルート
―午後4時以降、現地で山小屋宿泊予約の確認を実施。
―Webによる登山計画等の事前登録を試行。
―富士山保全協力金1,000円の任意協力を依頼。

【2025年】
全ルート共通
―午後2時から翌日午前3時まで五合目の登山道ゲートを閉鎖し、山小屋の宿泊予約がある人などを除き、五合目からの入山を規制。
―通行料・入山料として4,000円を徴収。
―登山のための通行予約または事前登録をWebシステムで実施(山小屋の宿泊予約は別途必要)。
*吉田ルートは、1日4千人の登山者数制限を2025年も継続。
詳細は、『富士登山オフィシャルサイト』をご参照ください。

 

2024年に施行されたルールは、頂上でのご来光を眺めるため夜間の踏破を辞さない弾丸登山の抑止を主な目的としました。果たして導入初年度はどのような効果があったのでしょうか。

「それまで夕方から夜にかけて、オンシーズンの多い日では約1,000人が入山していたのですが、これが目に見えて減りました。弾丸登山の実質的な抑止ができたのは、新ルールのメリットと言っていいでしょう。夜中にお祭り騒ぎで登る人が激減したので、宿泊計画を立てた人のストレス軽減にも役立ち、富士登山の満足度が向上したと思います。富士山の登山ガイドを始めて20年近くですが、夜がこんなに静かになるんだと実感しました」

 

ルール導入2年目の2025年は、全ルート共通で通行料・入山料として4,000円の徴収 が求められるようになりました。これに関しては、メリットとデメリットを予想しているそうです。

「規制の強化と受け止められる部分だと思いますが、富士山全域での統一はルールを明快にする上でメリットになるでしょう。ですが、お金がかかることで登山を諦める人が出てくるのではないかと。特に子供の体験機会を奪いかねないかが心配です。山梨県では、障害者や修学旅行生などの教育課程に基づく教育活動に参加する児童・生徒を対象に通行料・入山料が免除されるので、そのあたりの仕組みを利用していただけたらと思います」

 

2025年の変更点として注目したいのは、五合目の登山道ゲートの閉鎖時間が前年より2時間繰り上がったところです。これはどのように決められたのでしょうか。

「昨年もお話しましたが、富士山の登山ルールは、県の協議会などを含み多くの人々による議論と検証によって、妥当性の高い規制と判断され実施されました。閉鎖時間も同様です。実は2024年の初導入前も、午後2時閉鎖の案が出ていました。しかし正午から2時間程度が入山のピークなので、午後2時に規制してしまうと、確認作業などで現場のオペレーションで混乱してしまうのではないかと懸念がありました。そういったことも協議され、弾丸登山の抑制効果が出せるギリギリの午後4時に決まった経緯があったと認識しています。今年は、昨年の結果や経験を踏まえての2時間前倒しですから、よい効果を発揮してくれると期待しています」

 

メディアでも頻繁に取り上げられた、2024年の新ルール導入。初めての試みであるがため、情報が行き届かなかったり、理解してもらえなかったりといった混乱が生じる可能性を危惧していたそうですが、初年度の実際はどうだったのでしょうか。

「登山者の多くは情報収集に熱心で、想像以上に今回のルールについてもよく理解されていました。特に外国からの登山者の理解度も高く、マナーを守ろうとする姿勢が印象的でした。一方で、午後4時のゲート閉鎖直前に登山を開始する様子を撮影・公開するなど、過激な行動が注目を集める場面も見受けられました。そのような傾向の中で、弾丸登山を一方的に“善悪”で語るような発信が目立つことも事実です。しかし私たちが本来取り組むべきは、登山そのものの是非ではなく、『何が安全で、何が危険なのか』を冷静に伝えていくことだと考えています。ガイドとして強制力は持たないものの、安全と尊重の精神をもって、登山者一人ひとりに寄り添った声掛けを積み重ねていくことこそ、私たちの大切な役割だと思っています」

 

安全な登山を目指してルールが設けられても、ルール自体に正解がないのがジレンマだと太田さんは言います。

「ガイドの立場からすると、本来であれば『無理のない登山をするには、〇〇や△△のような山を経験してから来てほしい』など、より明確なスキル基準やルールづくりを検討すべきだ、という声が出がちです。安全を最優先に考えれば、それは当然の流れかもしれません。しかし、そうした基準がかえって富士登山のハードルを上げてしまい、多くの人にとっての貴重な体験の機会を奪ってしまう可能性もあります。富士山に惹かれ、挑戦してみたいと思う気持ち自体は、誰しもが大切にしていいものだと私は思っています。だからこそ、最低限必要な知識や装備、登山前の準備、そしてルールに基づいた安全な登山の方法を伝え続けていくことがガイドとしての役割だと思っています。富士山はやはり特別な存在だと思います。見上げれば無数に輝く星空。わずか数十分で夜が朝に変わるその劇的な瞬間。山頂からのご来光を前にすると、自然と手を合わせたくなる──そんな気持ちが生まれる場所でもあります。富士山ならではの体験に、より多くの人に触れてもらいたい。これはガイドとして、変わらぬ願いです」

防水性と剛性の高さを求める太田さんによるコロンビア・アイテムのフィードバック

コロンビアをまとって活動する太田さんに、2024年の入山期間中に使用した2つのアイテムのフィードバックをいただきました。富士山登山のベテランが求める2大要素は、防水性と剛性の高さだそうです。


『マウンテンズアーコーリングⅤジャケット』

富士山の特徴的な気候のひとつが、長時間の集中豪雨です。下から叩き上げるように降られる場合もあります。そんな中でもガイドたちはこのジャケットを着てパトロールや救護者の搬送に出ていましたが、防水性が高かったです。蒸れを感じなかったのも透湿機能が高かったんだと思います。溶岩剥き出しの場所に触れても、重い荷物を背負っても、擦れがほとんどなかった剛性の高さも気に入りました。

 

もっとも優れていたのは、動きやすさです。絞るべきところは絞られ、ゆとりが欲しいところにはゆとりがあるというか、現場で作業するガイドにストレスを与えないフォルムなんですよね。デメリットを感じないのが最大のメリットと言えるジャケットです。

▲『マウンテンズアーコーリングⅤジャケット(ユニセックス)』¥44,000(税込)

『ワイルドウッドEXP 50L+10L バックパック』

個人的に防水性を求めないバックパックにおいて、最大の条件は剛性の高さです。これは本当に強かったと感じます。溶岩の上にがつがつ置いても擦り切れることもないし、お客さんの荷物を中に詰めて重さが増しても、ベルトがちぎれたり、縫い目がほつれたりということも一切なし。1シーズン使い倒してもトラブルはありませんでした。

 

ファーストエイド関連を多めに備えたり、ヘルメットを収めたりするので、ガイドは大きいサイズを選びますが、満載ではないときは各部のストラップを締めることで、バランスがよい状態をつくれるのがよかったです。ザックの場合、大は小を兼ねないと思ってきましたが、これに関しては許容範囲が広く、小を兼ねることもできると思います。

▲『ワイルドウッドEXP 50L+10L バックパック(ユニセックス)』¥29,700(税込)

 

登山ガイドが解説する三種の神器プラスワンの選び方

アイテム編の締めは、今シーズンの富士登山を検討中の、特にビギナーに向けたギア&ウェアの選び方。登山の三種の神器とされるバックパック、レインウェア、シューズに加え、太田さんのリクエストで増やした全4点の着眼点を紹介します。

バックパックはベルト類に注目
『ワイルドウッド30Lバックパック』

バックパックで注目してほしいのはベルト類。中でもウエストベルトは重要です。肩だけで背負うと、血流が悪くなり酸素循環に支障が出ます。ウエストベルトがあれば、腰にも重量を分散できるだけでなく、背中にバックパックが密着するので、正しい姿勢で歩ける。これが転倒防止や体力温存につながっていきます。

 

 

ワイルドウッド30Lバックパックのウエストベルトは取り外しができるので、様々なシーンで使えるでしょう。また、ショルダーハーネスの上部からバックパック本体に繋がるロードリフターストラップは、収納重量によって背負い心地が調整できます。この小さな細工も省エネ登山に効きます。

▲『ワイルドウッド30Lバックパック(ユニセックス)』¥15,400(税込)

色や形も登山のモチベーションになるレインウェア
『セントリリアムジャケット』

レインウェアでもっとも大事なのは、防水性。次いで動きやすさ。セントリリアムジャケットは、フードにつばが備わっている点と、各部の止水装備が高ポイントです。何よりコロンビアは、カラーのセンスとデザイン性の高さが際立っていますよね。登山では、色や形が支えてくれるモチベーションが、実はけっこう大切なんです。

 

▲『セントリリアムジャケット(メンズ)』¥26,400(税込)

シューズの肝こそ防水性と剛性
『セイバー シックス ミッド アウトドライ』

シューズもまた防水性と剛性が肝となりますが、夏の富士山であれば、コストパフォーマンスの高さで人気があるセイバー シックス ミッド アウトドライで問題ありません。このシューズは、防水透湿機能を持つ生地を足の裏側までぐるっと巻き込んであるので、水の侵入を防ぎながらもムレを逃してくれるため、長時間の山行でも快適性が期待できます 。

 

さらなる特長は、ストレスを軽減する軽さと、足首を守ってくれるミッドカット仕様。富士登山だけではなく、幅広いルートで使えるスペックが魅力です。

▲『セイバー シックス ミッド アウトドライ(メンズ)』¥16,940(税込)(左)、
セイバー シックス ミッド アウトドライ(ウィメンズ)』¥16,940(税込)(右)

汗のリスクを軽減するインナーを
『マウンテンズアーコーリングショートスリーブTシャツ』

あえて追加させてもらったのは、吸水&蒸発散の効果を持つクイックドライ素材を採用した、マウンテンズアーコーリングショートスリーブTシャツです。登山では汗がリスクになります。一度かいた汗が乾かないままだと、不快なだけでなく、体調を崩したり、低体温症を発症したりする確率が高くなるからです。それだけにインナー選びが重要であることを覚えておいてください。すぐに乾くので、この1枚あれば1泊登山をこなせるでしょう。荷物を減らすのも、快適で安全な登山の条件となります。

 

▲『マウンテンズアーコーリングショートスリーブTシャツ(ユニセックス)』¥7,150(税込)

 

行政や各団体などとの話し合いや、メディアへの対応。そしてガイドの仕事。各方面との調整を図りながら、太田さんは富士登山の現場の最前線に立ちます。ルール導入2年目に向けて意欲をたずねたら、こんな答えが返ってきました。

「やはり一番は安全。それぞれの人生にとって、富士山をよい思い出にしてもらいたいです」

状況は変化しても、ガイドしての太田さんの思いはまったく揺らいでいませんでした。

 

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Text:田村 十七男
Photos:後藤 薫