地図が読めれば、山はもっと楽しい。
▲甘利碧里さん
1994年生まれ、千葉県出身。スタイリストのアシスタントとして、日々、雑誌や広告の現場で汗を流す。最近の趣味は散歩とハイキング。
以前までは山に興味がなかったものの、友人が次々と登山を始め、自身もここ数年で山へ行く機会が増えたという甘利さん。低山に何度もトライするなかで「そろそろ人任せではなく、自分でもしっかり山を理解したい」と思うようになったとき、目に留まったのがコロンビア登山学校の「地図読み講習会」でした。
「これまでは、ただただ山を登るだけでした。案内板はあちこちにあるし、何より登山経験豊富な友人が先導してくれるので、付いていくだけでいい。でも、ひとりで登山することになったら、きっとすぐに迷子になります…。地図読みのスキルが身につけばその不安も解消できると思い、今回参加を決めました」
参加するにあたって、不安もあったと言います。
「周りが玄人の方たちだったらどうしようとか、ついていけるのかなっていうのはありました。しかも山の地図を読むなんて難易度の高いこと、私にできるのかなって」
さて、彼女はこの講習で何を感じ、何を学ぶのか。早速、一泊二日の模様をレポートします。
登山のプロが、地図読みのコツを伝授。
集合は土曜の13時、会場となるのは高尾山口駅からほど近い「Mt. TAKAO BASE CAMP」です。この日の宿泊場所でもあります。参加者は15名ほど。ベテラン揃いなのかと思いきや、20〜30代の姿も多く、男女比は半々。
「普段はGPSアプリに頼りきりなので、一度ちゃんと学び直したくて」という方もいれば「いざというときのために、地図は読めるようになっておきたい」など参加理由はさまざま。登山歴40年を超える大先輩もいれば、登山をはじめたばかりの人もいます。
▲古谷 聡紀
日本山岳ガイド協会認定山岳ガイド。 スキーとトレッキングのガイドとしてグリンデルワルト、ツェルマットに5年間在住。その後、世界中の山々を歩く。山岳・スキー雑誌のライター、アルプスに関するガイドブックも執筆。 海外のスキー場は、70ヶ所以上を滑っている。
▲伊藤 伴
中学3年でモンブラン(4810m)、高校3年でロブチェ・イースト(6119m)、大学3年でエベレスト(8848m)とローツェ(8516m)に、いずれも国際山岳ガイド近藤謙司さんのガイドで登頂。日本山岳ガイド協会認定登山ガイドの資格ももつ。
講師は、登山ガイドの古谷聡紀さんと伊藤伴さん。初日は地図読みの基礎知識を机上で学びます。
山でいちばん多いトラブルは「道迷い」。とはいえ地図は、道に迷ってから開いても、ほとんど意味がない。じゃあ、いつ、どう見ればいいのか。講習はそこを起点に、地図記号や地形の読み方、コンパスの使い方など、順を追ってわかりやすく教えてくれます。
「コンパスなんて使ったこともないし、地図の記号も小学校で習ったきり。どう見て、どう使えばいいか最初はわからなかったですが、実際に教わると『なるほど!』の連続でした。スマホだと一瞬でわかることを、あえてアナログでやるのもまた、新鮮でしたね」
講師のふたりが「スマホやGPSアプリを否定するのではなく、それらと地図読みのスキルを合わせて、たくさんの根拠を集めることが山登りでは大切」という言葉も印象的でした。
夕方には一度教室を出て、駅周辺の街を歩きながらの実践練習も。習ったばかりの手順で地図の向きを合わせ、いま自分がどこにいるのかをひとつずつ確かめていきます。
「まだ山にも入っていないのに、自分の現在地がわからなくなることもありました(笑)。ただ、コツをつかんだあとは『いまここにいるんだ、だったらこの方角に進めばいい』って。わかった瞬間はゲームみたいで楽しかったです」
初日の講座はこれにて終了。夕食を挟んで、参加者同士の山話は夜まで続きました。
2日目はフィールドへ。地図とコンパスを手に、いざ本番。
翌朝8時。外をみると、あいにくの雨。そんなときのために用意していたコロンビアのレインウェアと防水シューズで身を固め、いざ出発です。
ここからは、高尾山山頂まで、指定されたルートを地図とコンパスを頼りに歩きます。スマホは基本オフ。
講習はグループに分かれて行われます。ガイドは見守り役に徹し、先頭を歩くグループが、地図に書かれているルートをコンパスを頼りに先導していくというもの。
GPSや看板に頼れば簡単に歩けてしまう高尾山も、地図とコンパスだけが頼りとなると、自分がいまどこにいるのか、この先どんな地形が待っているのか、一つひとつ確かめながらでないと簡単には進めません。まさに、机上で習ったことを実際の登山道で試す時間です。
入山して間もなく、分岐点がやってきます。進むべき道の目印は、地図上だと右手に描かれている沢。あいにく視界も悪く半信半疑になりながらも、耳を澄ませ、目を凝らすと、沢の流れが見えました。
「地図に描いてあるものが、本当にそこにあると、ちょっと感動しますね」。紙の上の情報が、目の前の風景と一致する。その小さな成功体験が、甘利さんのスイッチを入れたようでした。
そこからは、こまめに立ち止まっては現在地を確認。参加者たちと「いまここですよね」「この先、20メートルくらい登りますね」と答え合わせをしながら進んでいきます。
面白いのは、地図が読めると「歩き方」まで変わること。この先の傾斜がわかっているから、ペースを配分できる。風を避けられる場所がわかるから、休憩のポイントも自分たちで決められる。実際、休憩場所を探す場面では、甘利さんが「この先、景色がちょっと開けそうなのでどうです?」と地図を指差し、ガイドに褒められる一幕もありました。
後半には、甘利さんのグループが先頭に立ち、進路を決めていく場面も。分岐点に差し掛かると「くだりです。方向的にも合ってます」と進路を宣言すると、ガイドから「本当にそれで大丈夫?」と揺さぶりが入ります。不安になりながらも、自分たちの読みを信じて進むと……正解。小さな歓声が上がりました。
「ちょっと意地悪でしたよね(笑)。ただ、疑われても『合ってます』って言えたのは、地図と照らし合わせた結果、たしかな根拠を見つけられたからです」
そうして歩くこと数時間、ついに高尾山の山頂に到着しました。地図とコンパスだけを頼りに、自分たちの力でたどり着いた山頂です。
「景色はぜんぜん見えないですけど(笑)、達成感がすごい。連れてきてもらったんじゃなくて、自分たちで地図を読みながらここまで来た、っていうのが大きいんだと思います」
「この先に、こんな道がある」と言えるスキルが身についた。
下山は、来た道とは別のルートで。雨に濡れた木の根や岩は滑りやすく、一歩ずつ慎重に足を運びます。それでも、その足取りは朝よりも明らかに軽い。下りながらも地図を開き、「ここからしばらく平坦ですね」と、先の地形を読んで共有する場面もありました。
15時、無事に高尾山口駅に到着し、ここで解散。地図を読みながらの登山は、これが初めて。あらためて甘利さんに感想を聞きました。
「山を登る行為も楽しいんですが、地図とコンパスだけでこの先の風景を予想できることが、なにより面白くて。これからこのふたつを持って、いろいろな山に登ってみたいって素直に思いました」
参加前に抱えていた「ついていけるか」という不安もどこ吹く風です。
「参加者の方々と同じ目的で歩いていくと自然と仲間意識も芽生えますし、わからないことは、ガイドさんも丁寧に教えてくれる。むしろ初心者ほど、コロンビア登山学校をおすすめしたいかも」
アンド最後に、いちばん彼女らしい一言を。
「玄人とは到底言えない私でも、いまは地図が読めるので『もうちょっと登ったら平坦な道が来るから頑張って!』とか言えちゃいます。早く友達に、この力を見せつけたいです(笑)」
登山の経験は少ないながらも、今回、山の地形を読む力がついた甘利さん。迷わない技術と、自分で歩ける自信。登山を長く続けるうえで大事なものを、彼女は2日間で手に入れたのかもしれません。
コロンビア登山学校は、テーマを変えながら、年間を通じて開催されています。
Text:木村圭佑
Photo:菊地晶太