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地方暮らしに憧れる人々に贈る、東京→北海道移住エッセイ OPEN THE DOOR No.2

2020/10/19

「山と食欲と私」作者・信濃川日出雄


第2回 異文化が日常に変わる


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すすきのに行ってみる

大自然と隣接する北の大都市・札幌。
この紅葉の写真は、札幌が誇る観光地の1つである藻岩山の登山道にて10月に撮影したものだ。
紅というよりは葉が黄色く染まることから黄葉(おうよう)と呼ぶこともある。
標高531mの低山にしてはあまりにも見事、山全体が黄色にオレンジに、あるいは紅色も混ざりながら、華々しく秋の盛りを迎える。もちろん植樹した公園ではない。自然林である。

ちなみに藻岩山だけが特別見事かと言えばそうではなく、実は北海道全体が大体こうだ。
緯度が高い北海道は、植生的にも落葉広葉樹が多く、どこもかしこも紅葉が素晴らしい。本州で例えるなら群馬や長野の高原地帯と同じような気候で、植生も似ている。

個人的には春の桜の季節よりも楽しみにしている。
まもなく葉が舞い散れば、雪が積もり始める。冬の始まりを告げる一瞬の花火である。

さて、そういうわけで東京時代よりも自然と近くなった喜びをどんどんと語っていきたいわけだが、とはいっても札幌という街が大都市であることに変わりはなく、ここには都市ならではの面白さがあり、そして寒い北国ならではの“アウトドア”な日常が存在する。
今回の主題はそんなお話。

9年前、札幌に移住したばかりの頃、初冬のある日であった。
「すすきのに飲みに行こうよ」
札幌で知り合った人に、軽い感じで誘われた。
右も左もわからない私である。え!?どういう意味?と驚いた。

すすきの。
訪れたことのない人にとっては、様々なイメージを想起させる地名に違いない。
できるだけ品よく言葉を選べば…いわゆる“男性向けのお店”ばかり、その方向に完全に特化した街…と想像する方も少なくないと思う。
少なくとも私はそう思っていた。

山間にある自宅から中心街へ、交通機関を利用すればものの30分程度の距離である。
大自然がすぐそこなら、大都市もすぐそこだ。
いざ、好奇心半分で実際に訪れてみれば、想像とはけっこう違った。

確かにそこは歓楽街であるが、しかしそれ以上に飲食店がひしめく“飲み屋街”であった。
双方のエリアに明確な区別がない、と言えばいいだろうか。

いろんなお店がごちゃまぜ、である。

ど直球に訴えかけるようなピンクの看板のお店の隣に、女性に大人気のオシャレなレストランが入っていたり(働く女性もまた多いと考えれば不思議はないのだが)、人気のラーメン屋も、人気のジンギスカン屋も、老舗の料亭もパブもバーもライブハウスも。そしてあんなお店もこんなお店も、全部すすきのでいっしょくただ。

地元の人も、観光客も。街は普通の人々で溢れ、普通に利用して楽しんでいる。すすきのは、気軽に飲みに行く街なのだ。


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異文化が日常に変わる

赤青黄…絵の具を全部混ぜると、濁ったグレーになる。真っ黒でもなければ、真っ白でもない。
冬の始まり、全てを飲み込んだグレーの街が、化粧をするように真っ白な雪で覆われる。
雪の歩道につけられる無数の人々の足跡も、ほんの少しの降雪で瞬く間にリセットされ、まるで真新しいキャンバスに落書きを楽しむように、次に行き交う人々が踏み跡を残しては、また消えてゆく。

なかなか面白い土地に引っ越してきたものだ、と思った。
異文化に飛び込み、やがてそれが日常に変わる。
これぞ移住の醍醐味ではないか、とワクワクしながら、その日は肉を焼いた。

知人と漫画の話で盛り上がっていたら、カウンター席で並びに座って飲んでいたホステスさんたちが「ウチ、漫画めっちゃ好き!ワンピース全部持ってる!」と話に加わってきた。
距離の詰め方が速い。なんという親しみやすさだろう。
お姉さんのいるお店に飲みに行ったわけではない。ただのジンギスカン屋である。

また別の日には、とあるバーでこんな男性と出会ったこともある。
若い頃、北限の港町でロシアの漁業関係者と“カニ”の取引をしていたという。国境間の取引にはデリケートな事情が絡み、相手との関係も一筋縄ではいかないそうだ。
ガタイのいい体格や、柔和な笑顔に似合わぬ鋭い眼光から、北の海を舞台に生きた男たちの物語を感じ取る。

あぁ、北海道の果てには国境があり、海の向こうには異国があるんだな、ここはそういう土地なんだなと実感した夜だった。


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寝たら死んじゃう

「ダメダメ!寝たら死んじゃうから!寝たら死んじゃうから!」

冬のすすきのを歩いてみよう。
飲みすぎて雪道に足を滑らせ今にも転びそうな酔っ払いが、こんな定番ジョークを叫びながら爆笑しては結局すっ転んで余計に笑っている愉快な情景に普通に出会えるはずだ。

はい、私も言っちゃったことあります、と、白状しておく。

そもそもね、いい大人になったら路上で寝ちゃうような飲み方をしてはいけないのだ。
お酒はほどほどに、美味しくいただく。そしてちゃんとおうちに帰ること。

というか、多分、寝てなんかいられない。
酒場から出た途端、猛烈な寒暖差で、あっという間に体が冷え、酔いも眠気も瞬時に吹っ飛んで目が醒めるのがマイナス10度の真実である。

「早く次の店に入ろ!」あるいは、「早くうちに帰ろ!」。
どっちでもいいから早くして。即決しないと、凍え死ぬ。

こんな時、救ってくれるのは「ごっついアウター」だ。
中途半端におしゃれを基準には選べない。(もちろんおしゃれであることに越したことはないが)多少野暮ったくても命には変えられない。
まずは機能性を最優先に、これさえあれば寒さなんて怖くないホンモノの防寒着が必須だ。
移住直後、“東京の冬装備”しかなかった私は、死にそうになりながら学んだ。

店の温もりを、アウターに包んで家に持ち帰る。冬の街の歩き方の基本である。

[商品レビュー]昨年から、コロンビアの3WAYジャケット(ホライズンズパインインターチェンジジャケット※)を愛用している。3WAY、つまり外殻となるジャケットと、インナーとなる薄手のダウン、それを切り離したり連結したりすることで3通りに使える。これをインターチェンジシステムと言うそうだ。

インナーとなる薄手のダウンの内側は「オムニヒート機能」というギラギラの素材でできていて、これのおかげで軽さの割にはかなり暖かい。
冬の北海道のマストアイテム「ごっついアウター」。これなら機能性を十分に備えながら、おしゃれも楽しめる。頼もしい相棒だ。時には連結を離しジャケットとダウンをそれぞれ単体でも気軽に着られるので、真冬に限らず微妙な温度調節が必要な晩秋から春先まで長く使える。

※写真のカラーは2019年モデルとなります。

今は気軽に夜の街に飲みに繰り出せる状況ではないが、いつか災禍が明けたら友人たちとお酒を手に語り合い、そしてまた様々な人々がクロスオーバーする街で、温もりと刺激に満ちた出会いを楽しみたいものだ。

早くそんな日常が戻りますように、心から願っています。

文・写真 信濃川日出雄

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プロフィール

漫画家。代表作は『山と食欲と私』。
2001年よりプロ漫画家デビュー。2015年から新潮社「くらげバンチ」にて連載をスタートした『山と食欲と私』が累計140万部を超え、現在も好評連載中。PR企画やグッズデザインなどにも積極的に参画、コロンビアとも多くコラボレーションしている。

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レビュー商品
ホライズンズパインインターチェンジジャケット
¥29,700(税込)

2020/10/19